2ペンスの希望

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「裏目読み」

かつて小川徹さんという映画評論家が居た。1963年頃から1991年死の直前まで雑誌「映画芸術」の編集長を務めた。彼の評論は「裏目読み」というキイワードで語られてきた。「表面的には何の政治的メッセージも読み取れないけれど、映画のそこここに作り手の思いや主張がさりげなく埋め込まれている。それを目に見える形で(時には作り手の思惑も超えて)取り出してみせるのが「裏目読み」だ、」言っていたそうだ。(時には作り手の思惑も超えて)というのが、いかにも時代だ。乱暴でほほ笑ましい。
分からなければ斜めにせよ、ひっくり返したって構わない、裏を読め、‥見た限り何かを受け取るべしとする精神のあり方、「作り手」と対等に立とうとする「見る人の意思(思想)」には、刺激を受けた。
中国の古典『孟子』尽心章句下三章にこんな一節がある。
悉(ことごと)く書を信ずれば則(すなわ)ち書無きに如(し)かず
《「孟子」尽心下から》書物を読んでも、批判の目を持たずそのすべてを信ずるならば、かえって書物を読まないほうがよい。
映画だって同じことだ。
悉(ことごと)く映画を信ずれば則(すなわ)ち映画無きに如(し)かず
好きだからこそ、拝跪してはいけない。