2ペンスの希望

映画言論活動中です

なんちゃって&ストーカー

映画館でもDVDでも最近吹き替え版が増えている。字幕を読む手間暇がかからないためなのか、若い人には吹き替え版の方が好評だとも聞いた。ロートルの洋画ファンにはいまだに字幕愛好家が多いようだが…、ということで 今日は日本語字幕ネタ漫談。
数日前にちょっとした必要あって、1950年代のヨーロッパ映画を何本か見た。
知られたのもあれば、忘れられた映画もある。いずれもストックしているDVDやらで視聴した。そこでチョッピリ驚いた。
著名なポーランド映画第二次世界大戦終戦の日、午後から翌朝にかけての物語。
共産勢力に反撥する若きテロリストを描いた一作。彼はワルシャワ蜂起の際、長く地下水道に潜っていたために解放後の今でもサングラスを手放せないままという設定。
そんな主人公とヒロイン(ホテルのカウンターバーの女性)のラブシーンでの名台詞。
ヒロイン:なぜいつもサングラスを
主人公 :形見さ  祖国を愛した記念 なんちゃって 
     ただ、蜂起のとき地下水道に長くいすぎたんだ

そんな字幕が出たので驚いた。あのマチェックが「なんちゃって」だって。
そう、別に隠す必要も無かろう。映画『灰とダイヤモンド』(1958年)の一駒だ。
見たのは2008年頃NHK BS-2を録画したもの。字幕翻訳者はひいきの太田直子さんだったので二度ビックリ。
昔見た映画では、「報われなかった祖国の思い出のために」とかなんとかだったと記憶している。とにかく「なんちゃって」なんて字幕は出なかった筈だ。太田さんのことだ。確信犯だと思う。なんちゃってチブルスキー。違和感ありあり、けどこれも時代なのかなとへんに納得してしまったのだから情けない。(最近何処かで、このやるせない若いテロリストを、チャラ男と呼んでいたブログも見た。なんともはや、だが、要人暗殺という仕事の合間に、しれっとホテルバーの女性を口説くのだからチャラ男といわれても全く的外れというわけでもないのだろう。 しかしなあ‥老いぼれは苦笑するしかない。)
もう一本、別の映画。別の字幕。
こちらは当ブログの表題にいただいている1951年イタリア映画『2ペンスの希望』
これも2003年NHK BS-2放送の録画分。当時人気だったネオリアリズムのローカル版青春喜劇だ。村のお金持ち=花火屋の親父さんが兵役帰り無職の若者(主人公)に向かって云う台詞。
花火屋の親父:(お前は)最近娘のストーカーをしているじゃないか
ストーカー?! 製作当時(1951年)はもちろん日本劇場公開時(1962年)にだってまだまだ「ストーカー」なんて言葉は広まっていなかったと思う。念の為こちらは、公開時のシナリオに当たってみた。【アートシアター4号所収 昭和37年7月発行】
シナリオにはこうあった。
花火屋の親父:お前が娘にくっついてばかりいるってことさ
そりゃそうだろう。
この「ストーカー字幕」作成は、細川直子さん。日本の字幕翻訳の嚆矢・故清水俊二さんの愛弟子。あの戸田奈津子さんとは兄弟弟子(いや、ここは姉妹弟子というべきか)ベテランである。
時代によって映画は変わる。字幕も変わる。そんなの当たり前ジャン。そうなんだよな。時流に合わせたというべきか、その時々の使い捨て・便利品仕様を嘆くべきか‥。
けど、なんかビミュー。お尻もぞもぞ。不思議な浦島太郎気分だった。
吹き替え版については、とんとご無沙汰まるで不案内だが、きっともっとイマドキ言葉満載、ポップな作りなんだろうなぁ。