2ペンスの希望

映画言論活動中です

惹句

『関根忠郎の映画惹句術』【徳間書店2012年8月刊】。
映画の本、それも現場を生きてきた人の本には面白いものが多い。これもその一冊。(それに引き較べては申し訳ないが、学者先生・研究者の映画本はゴツゴツ生煮えで消化に悪いのが多いように思う。錯覚か?)
さて惹句とは、短い宣伝文案のこと。関根忠郎さんは1937年生まれ、惹句一筋五十年のベテラン、75歳を越えて今も現役である。往年の東映時代劇に始まり、「関の彌太ッぺ」から「飢餓海峡」、「緋牡丹博徒」シリーズ「仁義なき戦い」シリーズ、「仁義の墓場」「女囚さそり」シリーズなどなど‥最近では高倉健「あなたへ」仲代達矢春との旅」なども手掛けた。監督や脚本家はスタッフタイトルに名を連ねる。撮影・照明・録音・美術・音楽・編集もまたしかり。けれど、広告宣伝担当やタイトル文字を書いたデザイナーまでが記されて残ることは稀だ。ちなみに、年配の人には馴染みのありそうな「仁義なき戦い」。あのタイトルロゴを描いたのは、東映専属デザイナー堀三千三さん、と本にある。 ほかにこんな一節もあった。
惹句の作り手は、大事に育てた文案が、できることなら映画からスライドして、他のフィールドへと独り歩きし、人々の口の端にのぼることを常に願っています。」宣伝なんだから当たり前といえばそれまでだ。けど、こんなことを思った。
ものを作る人は(とりわけ芸能や娯楽など「非・実業」といわれる分野の人は)どこかで世間をはみ出している・余計なことをしているという思いがあるようだ。けどその一方でやはり、世界と繋がっていたいという想いも深くあるのだろう。これを望まなくなったら・望めなくなったら、箱庭遊びの一人ゴッコ、閉じて腐るだけだ。
俺の映画は万人向けではない、分かる人にだけ分かって貰えればいい、最近の映画にはそんなのが少なくないような気がする。錯覚か?大層な芸術映画だけじゃない。シネコン封切りの娯楽作にもそんなのが多数混じっているような気がする。錯覚か?
映画を「なめたら、なめたらいかんぜよ!」(©夏目雅子『鬼龍院花子の生涯』惹句:関根忠郎)