2ペンスの希望

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進化無尽

もとより枝雀の魅力は理論にあるわけではない。
落語が抜群に面白かった。それがすべてだ。
それも一度完成したスタイルをどんどん進化させていったところが凄い。たゆまぬ精進、尽きせぬ進化。テレビでは、その様子を演目『代書(屋)』を例に見せていた。
代書屋(行政書士)のもとに履歴書を作って欲しいと初めて訪れた松本留五郎の台詞。
履歴書=リレキショの言い方が、変化していく。
80年6月の高座では  ジレキショ
84年7月  〃      ギレキショ
88年3月  〃       リレキシオ
92年1月  〃        ギレレレ・・・キショ(見事な巻き舌)
これを短く編集した映像で見るのは本当に楽しい。圧巻。
枝雀落語がさらに凄いのは、アドリブや思い付きでやっているのではないことだ。
いつもその時その時の最上の完成品を演じ続た、そのための稽古を日々重ねていた、と弟子が証言している。形が決まりいちど受けたらそこにとどまるのが常、客もそれを望み期待する。それが嫌だったようだ。なぞるのは退屈、繰返しではアカン、決まりきったことをやるのは苦痛。客に受けても自分が満足できなかったら駄目。‥だとすれば、行くところまで行くしかなかったのだろう。  芸が身を滅ぼす ‥因果なものだ。