2ペンスの希望

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亀之助

中也も朔太郎も読んできたが、一番しっくりして、永く惹かれてきたのは、亀之助だ。
尾形亀之助。初めて読んだのは、1971年から1972年にかけて発行された角川文庫版「現代詩人全集」の第五巻(現代一:伊藤信吉解説)だった。その後、1975年6月に思潮社刊の現代詩文庫版(第二期)が出た。以降もっぱら愛読してきたのはこの版だ。
それから暫くして、当時東映京都の助監督だった深尾道典さんのシナリオ&エッセイ集『山手線赤目駅』(仮面社1979年8月刊)が出た。(深尾さんは映画『絞死刑』のシナリオを書いた映画監督。『女医の愛欲日記』がデビュー作)この本で、深尾さんも亀之助に惹かれていることを知った。少し長くなるが深尾さんの文章を挙げてみる。
尾形亀之助の詩
(一)

白に就て

松林の中には魚の骨が落ちている
(私はそれを三度も見たことがある)
――「雨になる朝」――

詩を読んでいて、その場ですぐ馴染めるものとの付き合いは、長くないようだ。長年にわたって味わうことの出来るのは、めぐり逢った時には何か抵抗感があって親しめないとか、茫洋としていてとらえがたく馴染みにくかったりするが、奇妙な魅力だけは確かに感じられる、そんな詩であり、詩集であることが多い。
‥‥中略‥‥
「白に就て」という詩は、その詩を書いた尾形亀之助という詩人の名前は忘れてしまっているというのに、その詩のイメージは、私の中に眠っていて、何かの拍子に甦ってくるのであり、いつの間にか、忘れてしまっている私の同質の体験を掘り起こしてさえいるのであった。
(三)
(亀之助‥引用者註)は、深く人生に絶望しているのに、剽軽なのだ。いや、深く絶望しているが故に剽軽なのだと言いかえねばなるまい。 ‥‥後略
以来、亀之助について書かれたものが目に触れると、手当たり次第に読んできた。
最近では、
尾形亀之助の詩 大正的「解体」から昭和的「無」へ』福田拓也(思潮社2013年7月)
『単独者のあくび:尾形亀之助吉田美和子(木犀社2010年6月)
『小説尾形亀之助 窮死詩人伝』正津勉河出書房新社2007年11月)
『二列目の人生 隠れた異才たち』池内紀晶文社2003年4月)
他にも、江國香織の小説「ホーリー・ガーデン」に引用されたお陰で、一躍有名になる
なんてこともあった。それが、
おゝ これは砂糖のかたまりがぬるま湯のなかでとけるやうに涙ぐましい
――「犬の影が私の心に写つている」――

という一行。
機会があれば、ご一読をお薦めする。