2ペンスの希望

映画言論活動中です

具体1

桃、柿、蜜柑、そしてトマトとくれば、日本映画好きの何人かは“はぁはーん”と分かるだろう。そのとお〜り。加藤泰監督の十八番、季節の果物を使ったラブシーン演出である。桃は『明治侠客伝 三代目襲名』、柿は『遊侠一匹』、蜜柑は『緋牡丹博徒 お竜参上』、そして、トマトは『日本侠花伝』。
加藤泰の大ファン鈴村たけしさんの本にはこうある。
男と女の心のふれあいを桃の受け渡しひとつで表現する。みずみずしい情感があふれ出る。映画とは、このようにして語るものなのだろう。」【ワイズ出版「冬のつらさを―加藤泰の世界」2008年6月刊】
評論から小説に転じた竹西寛子さんは、小説を書き始めたときに突き当たった壁について、エッセー「『見る』に始まる」でこう書いている。
小説で必要なのは、事物の具体的な表現であって、抽象的な論評でもなければ概念的な記述でもない。なぜこの作品の書いたかという、作者の直接の言葉は不要であり、結論は、作者が提示した具体的な事物を通じて読者にゆだねればよい。」【岩波書店『「あはれ」から「もののあはれ」へ』2012年11月刊】   そのとお〜り。 異議なし!