2ペンスの希望

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「誠実な絶句」「沈黙の気泡」

暫く映画は見ていない。
歯ごたえのあるものと甘味の強い軽い本を読んで暑気中りを凌いでいる。
甘味系では、いとうみくの「かあちゃん取扱説明書」【童心社 2013年5月 刊】が、
歯ごたえ系では、佐々木中の講演集「仝[dou] selected lectures 2009-2014 」【河出文庫 2015年2月 刊】が面白かった。
佐々木中については、東日本大震災のあとの発言が印象に残っていたので、名前はうっすら憶えていた。
佐々木は異議を唱えていた。
震災直後からメディアやジャーナリズムが「知識人の責任」として「なにかを言わねばならない」「可能なら気の利いたことを言わなくてはならない」としてくる「雰囲気」には、ある種の「圧力」を感じる、と。
「(最悪の事態のなかでもっとも悲惨な境遇のなかにいる人々を、敢えていえば)「ネタ」にして「利用」して語ることを、われわれは強要されている。
二年ないし三年は、文学そして思想や批評シーンで「ネタ」として消費されて、そのまま忘れ去られてしまうのではないか。‥‥たとえば、震災を話の種にした小説が次々と出版されたり、「9.11から3.11へ」などといったお題目で、思想・批評ゲームが繰り広げられることになるのかもしれません――「さぁ、お祭りだ。一大イベント、ゲームの始まりだ。お題は大震災と原発事故だ。はい、一番頭がいいのは誰?」とね。」                【2011.4.15.紀伊国屋じんぶん大賞受賞記念講演「前夜はいま」】
同時期の或るラジオ番組では、「誠実な絶句」と語り、この講演ではロラン・バルトの「沈黙の気泡」という言葉を引用していた。