2ペンスの希望

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虫明と青銅

虫明亜呂無といっても、若い人はほとんど知らない名前だろう。
ペンネームではなく本名。1923年東京生まれ。1991年他界。スポーツ、競馬ギャンブル、旅、文芸批評とともに、映画・演劇についてもたくさんの文章を書いた文筆家だ。
若い頃は熱心に読んだ。最近 高崎俊夫編『女の足指と電話帳―回想の女優たち』と『仮面の女愛の輪廻』【2冊とも2009年 清流出版 刊】を読み直した。
やっぱり上手。
達者な文章で読ませる。
酔わせる。とはいえ、今回読み返してみて、
有り余る文才をいささか持て余し気味、弄ぶ感無きにしも非ずとも感じた。
それでも十分に堪能した。
同時並行で、藤井青銅『幸せな裏方』【2017年3月 新潮社 刊】も読んだ。1955年生まれ、ラジオを中心に活動する放送作家で、ステージの構成や演出・プロデュースもこなせば、小説やエッセイ・企画本も出す多彩な仕事人。こちらも文章は達者、面白く読んだ。ただ、達者だが軽い。表層、後に残らない。誤解なきように付け加えるが、くさしてるんじゃない。分かり易くて含意も豊か、後味も爽やかだ。
虫明の文章のとろりと濃厚な粘り気・重さに比べると、さらりと淡麗、さっぱり味。悪くはないし、うまいもんだ。 時代の違いなのだろう。
読み比べながら、少し前、親しい監督さんが言っていたことを思い出した。「我々の時代とは、教養の質も中身も全く変わってしまっているんだよ。
それでも変わらぬ共通不変(共通普遍)がある。
果てしない好奇心とゆるぎない観察力(洞察力)、眼力・眼識。そしてさらに正確無比な表現力、この三位一体。
二人ともクリエーターとかコンセプト、コンテンツなんてしゃらくさい言葉は口が裂けても使わない筈。