2ペンスの希望

映画言論活動中です

敬して遠ざけ日が暮れる

「映画監督・柳澤壽男の世界」という副題を持つ本『そっちやない こっちや』【浦辻宏昌+岡田秀則 編著 新宿書房 2018年6月30日 刊】を読んで色んなことを考えた。
残念ながら一本も観ていない。
福祉啓発映画(福祉ドキュメンタリー)という枠組みへの先入観ありで、公開当時は 生意気盛りの二十代映画青年の食指は動かなかった。『夜明け前の子どもたち』『ぼくのかなの夜と朝』『甘えることは許されない』なんてタイトルも何だかなぁ、と 敬して遠ざけてきた。本を読んで初めてその切実・誠実・真摯を知った。短編映画、PR映画業界にどっぷりつかってきた一人として、身につまされ身に沁みる言葉がいくつも並んでいた。
塩瀬申幸キャメラマン野田眞吉さん、中村敏郎さん、物江竜慶さんなんていう懐かしい名前もあった(いずれも若い頃 当ブログ管理人がお世話になった方々)
「人間の内面は写せるか」という問いかけ。
この国には、「大えらいさん」、「中えらいさん」、「小えらいさん」がいっぱいいる。自分の中のえらいさん願望との「タタカイ」も含めた両面作戦。」
終生大切にした映画作りの要諦「行って来いの関係」
お前の仕事はウイットとユーモアに欠けている、ベトベトしてカラッとしていない、絶望を語るのはうまいが希望を語るのは下手くそ、と批判されても抗議もできない。‥‥もしうまく工夫して私と被写体両方のドキドキ、ハラハラ、ウロウロを観客に伝える方法が見つかれば私の仕事は変わるかもしれない、と自問自答。」etc.
評伝を纏めた浦辻さんは柳澤監督の気質を「「怒り」ではなく「いとおしさ」」と表現し、「ウイークポイントは音楽だったのではないか」と書いた。
故 佐藤真さんは「弱点(音楽の多用、類型的、古風なナレーション)がありつつも時間をおけばおくほど輝く作品」と評した。
人は生まれた時代を生きるしかない。悲しむべきことではない。その中で精一杯やればよい。それだけだ。
柳澤映画は、昭和の映画である。フィルムの時代、スタッフワークの時代。‥‥時代は過ぎた。まもなく平成も終わる。見ておけばよかったという思いと、見なくても何となく判るという不遜な気持ちが滲み混じる。
自主制作5本目のタイトルは、『風とゆききし』。宮澤賢治の『農民芸術概論綱要』の一節「風とゆききし、雲からエネルギーをとれ」から採ったそうだ。
(どうして、後半の「雲からエネルギーをとれ」を省いてしまったのだろうか、残した方がずっと強くて素敵なタイトルになっただろうに。← 余計なお世話、
外野の遠吠えだが、斯界の後輩の繰り言、寛恕を願う。)