2ペンスの希望

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本『名誉と恍惚』

先に片付けないといけないことがあるのに、ずるずると後回しにして読みふけってしまった。

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松浦寿輝の小説『名誉と恍惚』【2017年3月刊 新潮社】765頁 定価5400円。とはいえ、公立図書館で借りて、イッキ読みだった。1937年上海を舞台にした冒険小説。松浦さんは映画好きなので、映画にまつわる話しがふんだんに出てきて楽しめる。『駅馬車』『大いなる幻影』から『アンダルシアの犬』まで。さらに映画館、映写技師‥。映画女優の架空の主演映画、その女優が語る演技論も。

ヒロイン美雨(メイユ)のセリフ「あのね、悲しみを演じるのに、本心から悲しい気持ちになる必要なんかないんです。そういうやり方をする俳優は二流なの。一流の俳優は普段から、自分の見かけを構成している要素をふだんからぜんぶ把握している。演技というのは、本質的な要素だけを分別したうえで、それをほんのちょっぴり変えてみせることなの。するとそこに、演じている役柄の人物そのものがむっくり身を起こしてくる。‥‥ 心の中まで役になりきるなんて不経済なことをする必要なんか、全然ない。‥‥ 自分がどう見えるか、他人(ひと)の目にどう映っているかに命を懸けるのが俳優なの。

第二次上海事変から日中戦争になだれ込む上海・共同租界を舞台にした一見構えの大きな物語という体裁だが、好きな映画や音楽を自在に配したワクワク感が伝わってくる。岡惚れした筒井康隆センセが推挙したこともあってか第53回谷崎潤一郎賞第27回 Bunkamura ドゥマゴ文学賞を獲っている。

筒井康隆が新潮社の「波」2017年3月号に書いた【特別書評】も挙げておく。

連載中からずっとそうだったのだが、ぼくはまるで映画を観ているような気分だった。少年時代、青春時代の古いモノクロの超特作映画を、あの丁寧な、脚本のがっちりした撮り方による映像を頭に浮かべて読んでいたのだ。むろん娯楽作品だから多少役柄は異なっても俳優全員人気スタア、主演の芹沢は上原謙、美雨は高峰三枝子、嘉山は佐分利信、馮は山本礼三郎、洪を佐田啓二その他、その他である。このような楽しみ方ができるのもこの作品なればこそであったろう。然り。ぼくはこの作品にミーハー的な惚れ込み方をしてしまったのである。この大長篇、作者は大変な苦労をして書いただろうなと思っていたのだが、実は比較的すらすら書いていたと編集者から聞かされてぼくは驚愕したのだが、参考文献を見て、なるほど本当のインテリというのは百科辞書的な知識を持っているのではなく、過去に読んだ膨大な書物のどれに何が書いてあるかを知っていることだったのだと思い知らされたのだった。

たしかに。インテリは食わせ者。どこまで行っても気が済まない、気が休まらない不幸な人士だ。けど後戻りはできない、不可逆反応体なのだ。(ん? ちょっと何を言ってるのか解からん?って)