戦後最大の思想家とか記念碑的写真集‥なんて御大層な帯の煽りコピー、加えてインテリゲンちゃんのいかにもなコメントには辟易する。けれど、長女:吉本多子(漫画家:ハルノ宵子)の序文は読ませる。
「舳先は常に波に対して直角に立てる。
横っ腹で波を受けては危ない。
水を掻くのはオールの先端だけで充分だ。
オールが半分以上濡れているヤツはシロウトだ。
オールの角度は舟に対して90度まででいい。
めいっぱいうしろに振るのは力のムダだ。
波を乗り切るだけじゃない。風の向きと大きな潮の流れにも気を配れ。
これは比喩でも何でもない。
まだ中学生だった私が、父から生涯唯一手取り足取りたたき込まれた、"貸しボート屋の息子"直伝のボートの操り方だ。
他にも、制動・逆送・その場での方向転換などの高度な技術も体が覚えていて、今でもできる。
時々気まぐれにボートに乗ってみたりするが、父の教えはすべて"海仕様" なので、狭くて平らかな池では技術の発揮しようもなく、近年のグラスファイバー製のボートは"竜骨"が入っていないので、風に流され他人のボートにぶつかるばかりだ。吉田さんの撮る父は、私の知らない貌の父だ。"竜骨"の入った人の貌だ。竜骨が長くて重いほどボートは風に流されないが、操りにくいし方向転換も難しい。」
"竜骨" いい言葉だなぁ。
ん?竜骨がわからんって? 勝手に調べてくれ!