2ペンスの希望

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本『下水道映画を探検する』

映画にまつわる本はゴマンとある。が、イヤになるほどアタリは少ない。なかで最近読んだクリーン・ヒット一本。とはいえ〈こんなところに目を付けた俺様はエライ〉といったサブカル礼賛の変格自慢・自己満足本ではない。【星海社新書 2016年4月 刊】

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タイトルはいかにも星海社新書らしいキャッチ―さだが、いやいやどうして年季も腰も入った「埋もれた労作」間違いなし。折り紙進呈。

ご興味の向きに、目次を挙げる。

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もとよりなにより直接当たって貰うのが一番。(アマゾンでググると中古本も出てくる)【忠田友幸さんのあとがき】が最良のナビ。

下水道の世界を私が紹介するのは、私が映画好きな下水道に携わる技師であったからだ。俗に言う職業病なのだろうか、就職して下水道の建設に携わるようになると、旅行などで各地に行く度に、土地土地のマンホール蓋が気になった。同じように、映画を観にいくと、スクリーンに時々映る下水道が気になって、そういう作品だけはパンフレットを買っていた。

下水道なんて、たまにしか出てこないが、それでも月日を重ねるのは恐ろしいもので、そのうち下水道登場映画のパンフレットが積み重なって、「こんなにあるんだ」と思うようになった。そうすると、もっと捜してみようと思うのも、人間の性か。映画も映画館で見るだけでなく、VHSとか βといったビデオテープの時代を経て、DVDとかブルーレイの世の中になった。B級映画でも、たくさん見て調べることができる時代へ。調べていると、「こんな描き方をしているのか」とか、「こんな作品にも下水管が出てくるのか」と、見つかる作品もふえてきた。

骨董品を集める方が、人に自慢げに見せたくなるのと同じで、私も人に見せたくなった。病が膏盲に入ってしまったらしい。そこで『月刊下水道』という業界誌に映画紹介の連載をお願いした。その文章に手を入れてまとめたものが、本書である。

66頁にはこうもある。

私の「下水道映画」収集は、骨董などと違って、お金がそれほどかかるわけではない。しかし、逆に金銭的価値がないものは、あっという間に世の中から消えていってしまうものである。で、探すのがより困難になる。

もとより映画は作り物である。現実とは違う。

だからこそ、いい加減な嘘は困る。本物らしくあらねばならない。どこまでも調べ上げて事実に基づいてリアルに‥‥忠田さんの筆は揺るぎない。

環境意識向上を意図して作られ、地球環境映像祭で受賞した映画『川の光』とその原作(松浦寿輝)の嘘(下水管、下水道、下水処理に対する間違った理解・イメージ)に対しても容赦ない。【54頁「下水道への認識不足が残念」】忠田さんは、認識の誤り・間違ったイメージの流布を見逃さない・赦さない。専門家ゆえの誠実さ、その姿勢が貫かれて痛快。

こういうのを本格派という。こういう人こそ本物のプロ、映画人。

忠田さんの連載は今も続いているようだ。

■今日のオマケ忠田さん推奨:下水道映画 不動のベストワン=言わずと知れた『第三の男』ダイジェスト映像。


The Third Man - Trailer with Theme (Anton Karas)