2ペンスの希望

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名工は無名工

雪朱里さんの本『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』【グイフィック社 2019年12月 刊】を読んだ。表紙が凝っている。部分的にぼやけた擦りガラスのような文字の奥に鮮明な人物写真がある。顔は見えないが何か作業中の仕事場みたい。何をしているのか覗いて見たくなる。顔を見て見たくなる。そんな気分になってくる。

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そもそもから印刷や活字や書物が好きなので、面白く読んだ。当たり前のことだが、印刷物の世界も多彩だ。奥行き深く様々な裾野があってこその世界だ。普段 本を手にしてもそのことは忘れている。この本を読んで改めてそのことを思い知る。田中一光杉浦康平はじめ名だたるデザイナー装幀家、写真家が登場し、ツバメノート(台東区浅草橋) 便利堂(京都市中京区)など多少は知っている製品や会社も出てくるが、実際にどんな人たちが作っているのか、職人さん・技術者については何も知らない。この本に登場する34人は、皆初めて知る名前だ。

何処のどなたが言ったのか知らないが、「悪名は無名に勝る」という下品な言葉がある。大手を振る時代も時代で情けない限りだが、この本を読むと「名工は無名工」という対案を突き付けたくなる。

34人の職人さんたちの笑顔はどれも皆清々しく素敵だ。(奥付には、写真を撮った池田晶紀さん、川瀬一絵さん、河合竜也さん、弘田充さんの名が明記されている)↓ 故人をお一人だけ。

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 映画製作の世界も同じことだ。

監督や主演俳優だけにスポットライトが当たるが、無数の裾野が存在してやっと出来上がっていることを忘れないようにしたい。活版からオフセットへ、さらにDTPへ、印刷の世界が変わっていくように、時代とともに映画の作り方も変わる。

フィルムからチップ・デジタルへ、撮影所から個人工房へ、メディアもスタイルも激変した。けれど‥

人が技術を作り、技術が人を作ることに変わりはない。

今日もそう思う。