病床を見舞った吉田喜重に、小津安二郎が口ずさむように二度繰り返したとされる言葉「映画はドラマだ、アクシデントではない」が、頭から離れない。吉田喜重は「この私への遺言ともいえる最後の言葉の真意を求めて、『小津安二郎の反映画』を執筆した」と語っている。
吉田は、「ドラマ」という言葉をいわゆるドラマチックな物語・波乱万丈起伏に富んだ出来事を指すものと受け取り、「そうした映画らしい映画に背を向け、ドラマらしくない淡々とした日常を描き、登場人物もまた平凡きわまる人間であり、映画らしくない映画に専念し追求しつづける小津監督らしからぬ言葉」と前段重視で考えたようだが、果たしてそうだろうか。
むしろ、力点は後段の「アクシデントではない」にあるのではないか。
題材は戦争であろうと恋愛であろうと平凡な日常であろうと構わぬけれど、映画はどこまでも「作り物」=「作って、作って、作り込んで、どこまでも作り込むもの」であって、「偶然 アクシデント なんかに頼ってはいけないよ」と言いたかったんじゃないか。たまたま、ぐうぜん、フロック(fluke)、まぐれ、いきがかりなんかを当てにしてちゃいけないよ。そんな考え違いは捨てなさい、そう伝えたかったんじゃないだろうか。 吉田監督には申し訳ないけどさ、管理人にはそう思えて仕方がない。今となってはただすべくもないけどさ‥。真実なんで無数にあってもいいんじゃなかろうか。