ネットを叩くと、「死ぬまでに見たい映画◎◎選」とか「絶対に外さないおすすめ名画集」なんてページが嫌になるほど出てくる。ダメとは言わないが、アカンと思う。だって、どれもこれも皆、自分が見たものの中からしか選んでいない筈だからだ。人は時代と社会に縛られて生きる。年間に何百本見ようが、生涯視聴1万本を超えようが、すべて" MY BEST " つまりは、自分が目にした範囲=限られた中でのセレクトなのだ。
「そんなことはわかってるさ、百も承知。眉に唾しながら見てるだけのこと」という声も聞こえる。それならイイ。心配性なオールド映画ファンの杞憂。忘れて貰って結構。けど、映画が生まれて一世紀と数十年。ネットに投稿する諸君は残念ながらサイレント映画や白黒映画を現役・現物・現場で見て育ってきた世代ではなかろう。スターウォーズやゴッドファーザー以前にも、面白い映画・見て損のない映画は山ほどあることを忘れて貰っちゃ困る。困るというよりチト寂しく勿体ない。年寄りのノスタルジー・昔自慢と切り捨て、既読せずスルーするよという話なら何も言うまい。お気の毒というほかない。
ネットには「隠れたる傑作」「知られざる◎◎」「有名じゃないがカルト人気」なんてのも並ぶ。これだって" MY BEST "に変わりはない。私がチョイスした限定仕様。取扱い注意。
そこで老婆心ながら 二つばかり。
①蓮實重彦センセの新書『見るレッスン』の腰巻 宣伝文句
「他人の好みは気にするな 勝手に見やがれ!」
②文藝春秋編『大アンケートによる日本映画ベスト150』【1989年6月 文春文庫ビジュアル版】「たったひとりで、ベスト100選出の挑戦」した故井上ひさしの溜息。
「やはり映画に順番をつけてはいけない、とつくづく後悔している。」