2ペンスの希望

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聞こえない。聞こえる。

 前回に続いて、伊藤亜紗さんの本『記憶する体』【2019年9月30日 春秋社 刊】から。

現代音楽の有名な曲に1952年 ジョン・ケージが発表した『4分33秒』という楽曲がある。

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三楽章から成り、楽譜には4分33秒という演奏時間は決められているが、演奏者が出す音響の指示がない。つまり、演奏会場の聴衆は「4分33秒」無音の音楽を聴くことになる。伊藤さんの本に書かれていたエピソードはこうだ。

メディアアーティストの落合陽一と日本フィルハーモニー交響楽団は、振動と光で音を感じる装置を使って、耳が聞こえない人も一緒に楽しめる「耳で聞かない音楽会」という催しを開いてきた。或る時、このプロジェクトで、ジョン・ケージの『4分33秒』を演奏した。楽器の音は存在しないが、そのぶん、咳払いやパンフレットをめくる音など、会場に満ちるノイズに意識が向くことになる。演奏会後の鼎談で、耳に障害のある女の子が「いまの音楽は複雑です」と言ったことを受けて、落合は、「くそーっ、彼女はジョン・ケージの意を得たり」と思ったと語っていた。

伊藤さんはさらにこう書いています。

4分33秒』は、まさに「聞く」の輪郭を問う作品だと言えます。聞こえない。だから、聞こえる。

 (この項、さらに続けます)