2ペンスの希望

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三代目映画館主の記憶本

引き続き、映画の本を読んでいる。「チャンバリストを自称する著者が日本独自の暴力的アクション・エンタテインメント・任侠映画を論じた本」564頁、「私の物語と別れるために少年期から最新作までを回想し軌跡を綴った監督兼学長兼映画教育者の本」496頁、そして「築造百余年の東北の映画館の歴史記憶本」176頁。どれも熱のこもった充実・充血本だった。なかで、福島県本宮映画劇場三代目修業中の田村優子さんが二代目の父、初代の祖父のことを書いた『場末のシネマパラダイス 本宮映画劇場 since1914 』【2021.6.30. 筑摩書房 刊】は めっけもんだった。

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残念ながら、現役ではない。早くに閉館し、いまはごくたまに不定期の上映を行っているだけの映画館だが、歴史も記憶もぎっしり詰まっている本だ。文章もさりながら、写真が素晴らしい。あとがきにこうある。

フィルムやポスター、映写機といった「モノ」を通して劇場の記憶はよみがえります。映画史にも残らない映画会社や作品のこと、封切日から半年遅れの上映番組、田舎の映画館の日常を面白がっていただけたら幸いです。

劇場の空気も感じてもらいたくて写真は自分で撮影したものです。劇場の写真は高校時代から数えきれないほどの枚数を撮り続けています。‥(中略)‥「劇場がなかったらオレなんかただの人。こうしていろんな人と出逢うのは劇場のおかげなの」とは、父がよく口にするセリフ。

当ブログ管理人は三代目の筆者と二代目父上の間の世代、書いてあるエピソード、写真はもろに懐かしくどれも身に覚えのあるものだらけだった。

後代、外部の学者・研究者にはたどり着けない現場の匂い・息遣いは貴重品だ。

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