岡田秀則 監修 貴田奈津子 企画の本『昭和の映画絵看板 看板絵師たちのアートワーク 』【2021年6月30日 トゥーヴァージンズ 刊】は懐かしく胸が熱くなる本だ。抱きしめたくなる。
企画の貴田奈津子さんが、大阪ミナミ千日前にあった映画看板屋「不二工芸」にまつわる話と写真を集めた352頁。(不二工芸は、奈津子さんの祖父貴田不二夫さんがつくり父明良さんが継いだ映画看板職人たちの工房だ。)
都築さんの帯も素敵。往年の大スター、名画の感触が蘇り、看板の大きさまで浮かんでくる。
ということで、職人たちの記憶インタビュー=座談 から。
——俳優によって描きやすい顔、描きづらい顔ってありますか?
伊藤晴康さん:アラン・ドロンとね、オードリー・ヘブバーン、エリザベス・テイラーはむちゃくちゃ描きやすいんですよ。日本人は難しい。特に特徴ない顔。僕いつも怒られたのが、田中絹代という人。あれが全然、いつも似てないと怒られた。
松原成光さん:苦手っちゅうかね、嫌いやったのは、山本富士子、高峰三枝子、それから、岸恵子。のぺーっとした顔ね。あれは描きたくなかったねぇ。幸い山本富士子は大映やったから描くことなかったけどね。他にもおったねぇ、新珠三千代。大体のぺーっとした顔でしょ。
松原成光さん:外国映画では『ローマの休日』、日本映画では『七人の侍』、これを同時にやってるんですよ、千日前で。スバル座と敷島で。200メートル位離れたとこでね。今でいう歴史に残る名作映画が同時に封切られてるんです。どっちも不二工芸。その看板を、私はいまでも忘れない。
松原成光さん:看板というものの性質上、遠くから見て効果があがるように描かなアカンでしょう。だからあまり細かく描きすぎると、イザ、上がった時なんかジジくさいナという感じになるんやね。そうかと言って、あまり省きすぎると絵が薄っぺらになってしまうし‥‥。やっぱり「色」でキマルね。
いいなぁ、映画も看板も「色」でキマル。