2ペンスの希望

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没後二十年

没後二十年を経て衰えず人気の高い相米慎二監督の記念本『相米慎二という未来』を読んだ。

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「映画ジャーナリスト」金原由佳さんが中心になって、スタッフや役者・関係者の「回想・証言」に加えて「会ったことも仕事をしたこともない」若い監督や役者への取材で構成したインタビュー本だ。

相米を過去形にしないで、後に続く世代とりわけ監督志望役者志望の諸君に向けた「テキスト」「教則本」を作りたかったという意図はよく分かるが、初級入門書ではなく、中級か上級向けの本だった。早とちりや勘違いが出て来る「取扱注意」物件ということ。間違えば「礼賛祝詞」本になりかねない。それでも本にする意味・意義は大きい。無数に出る学者研究者の映画研究本よりずっと示唆的・実践的であることは確かだ。

印象に残った箇所は幾つもあるが、少々。

脚本は空気が書いてあることが大事なんだと、現場で脚本を書け、が口癖

自分で考えてやれ。俺はそれに○か✕を出すだけ

大切なのは誰と何をやるかだ

「このシーンの何を見ようか」は観客が選択することである。見ることの主導権は常に観客にあり

自分のスタイルは文体だけで、それ以外のことで自分を表現しようとか、何かを残そうというのは全くなかったと思う

 

「杭を一本打って、後の作業はスタッフと役者でどうぞ。監督は〇か✕かを出すだけ。責任は俺が持つ。画面のどこを見るかは観客が決める」そんな監督だったのだろうな、きっと。

「臆病で用心深く、けど、観察力抜群」だったんだろうな、たぶん。

芯や核を忘れて、形だけマネしても何も始まらないことを胸に刻んで、周りをしっかり睨んで、腕を磨くことを願う。