2ペンスの希望

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居眠り上等

映画は浴びるもの・浸るもの、映画館で観る映画はことさらそうだ。どっぷりと闇に包まれて、なるべくなら武装解除。脳は休ませて、できるだけリラックスして、感覚に身を委ねて、たゆたう方が良さそうだ。さすれば、眠りに落ちるのは至福の極みなのかも。思い出せば、かつての映画館には居眠りしている人をよく見かけたものだ。中にはいびきをかく豪の者も。はた迷惑はなはだしいのだが、ご当人には極上の極楽なのだろう。映画館の中では居眠り上等といきたい。

どこかで濱口竜介君が若い女優さんに言っていた。「眠くなる映画っていい映画なんだよ」(⇐ 『東京物語』に対する誉め言葉だった、と記憶する。「普段見過ごしてしまっていることを丁寧に描いているから」言わんとするニュアンスは分かる。)

もちろん、作り手からすれば、スクリーンに惹きつけて寝かせないぞと精いっぱいの手練手管、緩急自在な技を繰り出し、観客は睡魔と戦いながら受け止める、昔はそんな関係の真剣勝負が繰り広げられていた。今は違う。スマホやモニター画面では、眠くなったらあっさりフリーズ、電源オフ。続きは後で、一旦停止。早送り、巻き戻し、何でもござれ。作り手の手練手管も真剣勝負も一切スルー。殺生与奪権は受け手の手の中に握られてしまった。今更嘆いてもどうにもならないが、随分お手軽。深さの消えた世界になったものだ。

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