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森達也『私的邦画論』から その4

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Newsweek 日本版 2021.05.20 「映画とテレビは大違い②」

今でこそテレビで放送されたドキュメンタリーを再編集して劇場で上映することは珍しくないが、東海テレビはいわばその先陣だった。

特に組員たちの仕事や日常が一切モザイクなしで映し出される『ヤクザと憲法』には、僕も含めて多くのドキュメンタリストが唖然としたはずだ。それを言葉にすれば「撮っていいのか」。あるいは「放送(上映)していいのか」。見れば可能だったと気付く。ならばなぜ駄目だと思い込んでいたのか。(中略)‥ 多くの人(特にテレビ業界人)は映画を見て気付く。壊せるのだ。自分たちは萎縮していただけなのだと。

DVDや配信ではリリースされない。その理由について阿武野(*)は、ローカルなテレビのフレームから全国のスクリーンへと広がることが目的だったのだから、またモニターサイズに戻すのでは意味がないと、かつて僕に言った。劇場への恩返しの意味もあるのだろう。意外に義理堅い。

テレビはどこへ行くのか。どうあるべきなのか。免許事業であると同時に市場原理にさらされるテレビで、ジャーナリズムは可能なのか。多くの問いへの入り口がある。( * 阿武野勝彦 東海テレビ放送プロデューサー  太字強調は引用者)