2ペンスの希望

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森達也『池袋シネマ青春譜』

『池袋シネマ青春譜』という森達也の半自伝的小説を読んだ。【2004.3.20 柏書房 刊】四十代半ばに差し掛かった森が二十数年前の自分を小説に編んでいる。

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ムーミン谷の青春の悶々。人魚姫が空を飛び、黒犬が振り返る表紙画は鈴木翁二だった。立教大学の映画研究会SPP(セント・ポール・プロダクション)の面々が登場する。黒沢清万田邦敏塩田明彦‥‥。あとがきにはこうあった。「言わずもがなのお断りを最後にひとつだけ。これは小説です。実在する人と同じ名前が文中には頻繁に登場するけれど、あくまでもフィクション。架空の人物も大勢いるし、主人公である克己だって、僕自身とは微妙に違う。何より僕は、これほどに内省的なキャラクターじゃない。」おっしゃる通り自分自身を省みるタイプではないようだが、ひと(他者)の観察には長けているようにお見受けした。SPPのお仲間・黒沢清をこう描いている。「文末を反芻しながら曖昧に消えるのは、黒沢の日常会話の特徴だ。述語がいつも曖昧になり、最後にはたいてい、まあどっちでもいいけれど、といったニュアンスが滲む。だからといってけっして投げやりという意味ではなく、常に自分の言葉に煩悶しながら困惑しているかのような口調なのだ。」こんなのもあった。「「実は僕にもよくわからないんです」=敢えて意味性を錯乱させるかのような黒沢清のこのスタイル

確かにあとがきにあるように「何も変わっていない。人の本質は変わらない」のかもしれない。