2ペンスの希望

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『暗き世に爆ぜ』

2021年3月3日、小沢信男さんが亡くなった。93歳の大往生。単行本未収録の本『暗き世に爆ぜ 俳句的日常 【2021.8.6. みすず書房 刊】を読んだ。すこぶる素敵な本だった。題名は、宮武外骨墓所に刻まれた俳句「暗き世に爆(は)ぜかえりてぞ曼殊沙華(まんじゅしゃげ)」に由来する。

宮武外骨についてはググッてほしい。ちなみに 小沢さんの本にはこうある。「この人は、奇矯な出版活動で明治大正昭和をつうじて大いに暴れた。‥(中略)‥ そして四半世紀後に、次世代の具眼の士たちに再発見される。赤瀬川源平(画家・作家)松田哲夫(編集者)天野祐吉(雑誌出版社主・コラムニスト)吉野孝雄(外骨の甥・高校教師)らが「古本屋の隅から奇妙に面白い リバイバル出版へ」そして、読者、研究者、編集者の有志が命日に墓参する「外骨忌」が始まる。

墓は「やや菱形にすらりと立つ自然石の墓表に「宮武外骨霊位」と雄渾の筆跡」

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東京都豊島区染井霊園

その傍らに佇(ま)つ「名刺受けの小さい石柱の脇腹に」「なにやら読みにくい筆跡で「宮武外骨の墓をたずねる」と前書きしてこの句が刻まれている。

暗き世に爆ぜかえりてぞ曼殊沙華 信男

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実はこの句 外骨のものではない、小沢信男さんが請われて詠んだ句なのだ。そのお披露目の折の、小沢さんと編集者松田哲夫のやり取りが面白い。

「ははぁ」と隣で松田哲夫さんが「それでこれが小沢さんの、唯一の句碑ですか」。そうです。名刺受という実用の具に、相乗りさせていただいたのがミソなので。「つまり小沢信男の」と松田さんが念を押す。「唯一の文学碑なんだ」

一同アハハ。そうなんだなぁ。ほかならぬ宮武外骨さまの、玄関番風に控えているのが光栄です。三十年前に本気で俳句をつくりだして、よかったよ。みなさん、ありがとう。

いいなぁ、味わい深い文章だ。前段にはこんなくだりもある。

五七五という記録芸術の効用

なるほどね。その伝でいけば、

写真は、「薄紙一枚の記録芸術の効用」だろうし、

映画は、「二時間ばかりの記録芸術の効用」と言えそうだ。

いいなぁ、これも。

[オマケ]

小沢信男さんについては。二年前の年末にも書いている。よろしければ こちらもどうぞ。

kobe-yama.hatenablog.com