2ペンスの希望

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現場の記憶 記憶の現場

映画本はやっぱり現場の人にインタビューした本が一番だ。村川英編著『新版成瀬巳喜男演出術 役者が語る演技の現場』【2022.3.24. ワイズ出版】を読んで改めてそう思った。

これにくらべたら有象無象の評論家・研究者の論考なんてどんなに精緻だろうと生彩に欠ける。この本でただただ残念なのは、高峰秀子関連のインタビュー等が何らかの事情でごっそり欠けていることだ。

巻末の「成瀬巳喜男をめぐって―解説に変えてー」にはこうある。

初版、二刷りの単行本に掲載された高峰秀子さんのインタビュー、及び高峰秀子さんの書いた記事、高峰さんが登場する座談会の記事などを収録したかったが、ある日突然、別件で一方的に高峰さん側から、今後一切、ワイズ出版には使わせないという連絡が入った。高峰さんがご生前中にはそのようなトラブルは一切なかったので、これまで問題なかった記事の掲載不許可について、事情がまったく分からなかった。新版の出版に意欲を燃やしていたワイズ出版社長、岡田博氏は、交渉にあたった当事者だったが、その後、二〇二一年八月二十七日、癌のために急逝したため、私たちは今回、高峰サイドの要求のままに、高峰さんの記事を不掲載ということで「新版 成瀬巳喜男演出術 役者が語る演技の現場」の出版を決めた。」

外野ゆえ事情はつまびらかにはしない。ただ、ゆくりなくも、四宮鉄男さんが編集を担当した記録映画『成瀬巳喜男 記憶の現場(2005年 芹沢明子 企画 石田朝也 監督)のことを思い出した。

制作当時ご存命で当然ご登場いただきたかったメインスタッフの或る方からインタビュー撮影を断られたという裏話を聞いた。どんないきさつがあったのかは知らない。ただ「現場の記憶」が消えていくのはただただ寂しくただただ勿体ない。