2ペンスの希望

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上ネタ

上ネタといっても寿司ネタのことじゃない。

下ネタが、下半身・エロ話の類なら、上ネタというのは、上半身とりわけ口の話・食にまつわるアレコレだ。命名者は久住昌之さん。そう 漫画『孤独のグルメ』の原作者だ。(作画は谷口ジローさん)

久住さんはこう書いている。

ボクは全然「グルメ」じゃないのだ。

食べ物の漫画を作ってたけど、味のこだわりとか、食材調理の蘊蓄は、一切書いていなかった。ボクが描いていたのは、一貫して「お腹が空いてしまう、ということに始まる、如何ともし難い滑稽」(これをしばしば「下ネタ」に対する「上ネタ」とボクは表現している)。【The Jiro Taniguchi Collection 『かの蒼空に 坊ちゃんの時代 第三部』2021.12.29 附録冊子 エッセイ「馬鹿馬鹿しいまでに淡々と、キッチリ」:太字強調は引用者】

孤独のグルメ』の主人公 井之頭五郎(ゴローさん)の言葉。

モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか救われてなきゃあ ダメなんだ 独りで静かで 豊かで‥‥‥

いいなぁ。

そっくりそのまま映画に置き換えたくなる。

映画を見る時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか救われてなきゃあ ダメなんだ 独りで静かで 豊かで‥‥‥

ゴローさんについて、食のエッセイスト平松洋子さんはこう書いた。

なんと上等な孤独だろうか。声高に語ることが苦手で、お客の立場をこれ見よがしに持ち出したりせず、驚いたり発見したり、ときには戸惑いや後悔さえ調味料にして、なんでもない野菜炒めを一期一会のひと皿に仕立ててしまう。それをこそ、ほんとうの贅沢というのではないかしら。自身との対話を思いのままにふくらませ、内なる王国を治める心持ち。ゴローさんの一挙手一投足には。だから、ぶっちぎりの自由がある。

「さあ楽しませておくれ」という上から目線や蘊蓄はもちろん、ハッタリのかけらもない。隙あらば上座に座ろうとするそぶりなど、もちろんない。【単行本『孤独のグルメ 2』扶桑社 2015.9.30. 巻末特別寄稿「上等な孤独について」】

つくづく いいなぁ。

飢えや渇きを満たすというより、日々の日常的食事のように、腹を満たし胸に響く映画。みんなで観ても独りで静かで豊かで‥‥孤独のグルメ。上ネタ上等じゃないか。