2ペンスの希望

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謹呈署名代 百壱萬圓也

相変わらず次々に新刊が出る小津本だが、「生前OZUがまだ〈神様〉になる前」(©中山信如さん:稲垣書店)に出た一冊に『お茶漬の味 他』がある。

野田高梧との共著。1952(S27)年 青山書院刊B6 362頁の自装本だ。

『晩春』『麦秋』『お茶漬の味』などのシナリオが載る。小津映画のタイトルをほうふつさせる小津好みの装幀が味だが、珍本というほどでもない。

石神井書林内堀弘さんの本『古本の時間【2013.9.10. 晶文社 刊】にはこうある。

古書相場は八千円ぐらい(引用者 註:20年ほど前の記述。今の古書相場はニ三千円に下落しているようだが‥)とあるし、五冊見れば一冊には毛筆署名があるほど署名本も多い。(引用者 註:あまり売れなかったのか、自身の趣味で出版したかったからだろうか‥)ちなみに、ただの署名入は稲垣書店(引用者 註:前出 中山信如さんの東京三河島にある映画関連専門古書店で現在四万円だそうだ。しかし小津が原節子に献じた自著となれば世の中にこの一冊しかない。中山さん自身も「すなわち天下一本。絶対に売らない」と豪語していた。だが「絶対に売らない」ものを人は必ず手放す。これは古本の鉄則なのだ。

夏に開かれたオークションでこの本の最低入札値は三十万となっていた。出品目録を見て、ずいぶん高いものと驚いたものだが、私あたりはやはり全然わかっていない。というのは、あれよあれよと競り上がり、結果は百五万。同じ本の署名入の売価が四万だから原節子宛という付加価値が百一万というわけだ。原節子宛献呈署名代百壱萬円也。」(「『古本の時間』Ⅱ まるで小さな紙の器のように」初出 図書新聞連載「某月某日」一部引用者が勝手に改変。)

ふーん。

ということで、ここで 原節子の水着ブロマイド 三連。(なにがここでなのか、ちょっと何いってるか分からないが‥©サンドウィッチマン 富澤たけし

 

昨今「寄ってくんのは、サブカルチャーどまりの客ばかり」【中山信如さんの本『古本屋おやじ 観た、読んだ、書いた2002.2.6.ちくま文庫

分厚い本より、古書界で紙ものと呼ばれるチラシやポスター、ブロマイド、パンフレットあたりが高値で売買される風潮を、先の稲垣書店 中山信如さんは嘆いている。それもこれも二十年も昔のことだ。

言いたかないけど、古本の世界も映画の世界も何もかも 軽薄カルチャー化 が止まらない。いたしかたない時代なのかもしれないが‥難儀なことだ。