2ペンスの希望

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『文にあたる』から

フリーの校正者・牟田都子( むた さとこ)さんの本『文にあたる』【2022/8/30 亜紀書房を読んだ。

冒頭になにがしかの本(の一節)を採り上げ、それにまつわる思いを綴った短文集だ。

印象的だった箇所をいくつか挙げてみる。

◆「かんなをかけすぎてはいけない村上春樹村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』】より

日常を綴るための言葉、普段遣いの言葉は、辞書には載っていなかったり、文法的に見たらおかしなところがあったりするかもしれないけれど、いわんとすることは実感として確かに伝わってくる。このうねり、グルーヴ感に身を委ねていたいと感じるような言葉。校正を通した出版物ではあまり見ることのない、(の)の言葉とでも呼びたいような言葉にふれると、書くことはもっと自由でいいのにと思います。

◆「暗がりを残す荒川洋治『文学は実学である』】より

情報を制限する書き方」はいまは好まれない。しかし、「ひところまで文章はこのくらいの『明るさ』のなかに立って、知るべきものを照らしていた」のだ。‥‥(略)‥‥ ものごとが曖昧な輪郭の中に沈んでいる電球色の校正と、皓皓(こうこう)たる蛍光灯の校正と、どちらが求められているのか、‥‥(後略)

[ 註:太字強調は引用者。ただし 紫太字は牟田文章そのもの、黒太字は牟田さんが採り上げた本からの孫引き  ]

分かりやす過ぎるスッポンポンの映画が横行跋扈する昨今、「野の言葉」で綴られた映画、「暗がりを残した」映画に出会いたい。

なかでも一番共感したのは、これ。

◆「文章の強靭さ」【福岡伸一『ルリボシカミキリの青』 】

費やされた時間は建築物の筋交いのように見えないところで文章を強靭(きょうじん)にする。

んっ?「筋交い」が分からないって。

建築で「柱と柱の間に斜めに入れて建築物や足場の構造を補強する部材」のことさ。つまり これ ⇓

要するに出来上がったら見えなくなるっていう寸法。映画にも欲しい。