2ペンスの希望

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「第四の男」

これは、国書刊行会樽本周馬の本である。」

上野昂志の本『黄昏映画館 わが日本映画誌』のあとがきはこうはじまる。そうだった。文章を書いたのは上野だが、散在する文章を探し出し、取捨選択して全体構成を考え、編集・校正から仕上げまでを担うには編集者であり、版元出版社であり、印刷製本所なのだ。どれが欠けても本は出来ない。届かない。

箱に巻かれた帯には、樽本周馬が差配したのであろう蓮實重彦山根貞男の推薦の言葉が並ぶ。反対面には山田宏一の文もあるのだがイマイチなので挙げないでおく。

大阪シネ・ヌーヴォで催された「刊行記念上映会」のチラシで楢本周馬のこんな言葉を見つけた。少々長いが、転載してみる。

日本の映画批評において、蓮實重彦山根貞男山田宏一の三人が代表的な批評家であることは誰もが認めるところだろう。厳格にして野蛮な指導者として映画ファンをアジテートし続ける蓮實、日本映画の現在と格闘しながら22年かけて『日本映画作品大事典』を編集・刊行した山根、カイエ・デュ・シネマ同人から始まり一貫して自らの映画体験をエモーショナルに語る山田。マキノ雅弘森一生への聞き書き、『ヒッチコックトリュフォー 映画術』翻訳、雑誌「季刊リュミエール」編集などで互いに協働してきたこの三人のもう一つの共通点は何か……それは「上野昂志の編集者」であるということなのだ。山根貞男は雑誌「シネマ69」で上野に最初の映画批評(やくざ映画評)を書かせた。山田宏一は上野の第一映画評論集『映画=反英雄たちの夢』(話の特集、83年)を構成・編集した。蓮實重彦は編集長をつとめた「季刊リュミエール」で上野に川島雄三論、山田洋次論を書かせた。このように、優れた書き手である三人が文章を読みたい!と熱望してきた書き手が上野昂志なのである。
 映画の“肉体”を見つめてその面白さと魅力を引き出す、不断に反転する思考と深い洞察に裏づけされた上野批評は、主に鈴木清順大島渚の批評で知られるが、残念なことにその日本映画批評をまとめた本が少なすぎて、その卓越した仕事は十分に知られているとは言えない。そこで今回ようやく、単行本未収録の日本映画論を中心にまとめた『黄昏映画館 わが日本映画誌』が25年ぶりの映画論集として980頁の巨大ボリュームで刊行される。ここには加藤泰鈴木清順大島渚吉田喜重、森﨑東、黒木和雄小沼勝についての長い論考、画期的な川島雄三論、抱腹絶倒の山田洋次論、相米慎二北野武阪本順治と並走する批評、豊田利晃・大森立嗣・横浜聡子など新しい作家を応援する文章といった50年分の豊饒な仕事が詰まっている。本書により、日本の映画批評には蓮實・山根・山田に並ぶ第四の男がいる、ということが明らかになるだろう。国書刊行会 樽本周馬(太字強調は引用者)

樽本周馬の営為に呼応して、この「第四の男」が語る「四十五人の映画監督」をしばらく採り上げてみたい。