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大杉栄

大杉栄といえば知られたアナキストだが、なかなか達者な人物だったようだ。
というのは、KAWADE道の手帖というムック『大杉栄』【河出書房新社2012年2月刊】を読んだからだ。土曜社という出版社を立ち上げた豊田剛さんのエッセイ「大杉栄のずるい本屋」。その中に、大杉が書いた手紙が載っていた【1919年11月7日安谷寛一宛】。同志から本の出版について受けた相談への返事である。とても面白かった。
引用する。
1、稿料はどうなるか。そんなちっぽけなものだから特に四十円でもいいが、モットなんとかならぬか。本屋なんかに遠慮せずに談判すること。/二、印税はどうなる。普通一割半から二割くらいのものだが。/三、初版は無印税というようなこの場合、あとに影響する大事なことは、初版は何部刷るか再版はどう?という風にきめるのだ。本屋という奴はまったくずるいのだから、最初にしっかり決めておかねばならぬ。/四、認印を貸したりせぬよう。まったくその辺りが油断できぬのだから。/以上の注意にもとづいて決めた上、も一度通知してくれ。くり返し言うが、本屋になんか遠慮することはない。最初の談判が大切だ。大杉栄が、「稿料と印税で稼いだ大正の売れっ子書き手だった」ことも豊田さんのエッセーで改めて知った。いまだに「物書きがお金についてあれこれ細かく言うのは‥いかがなものか。むにゃむにゃ‥」なんぞとほざく二流の文化人真っ青。
文を売って金を得る商売人が、お金の話を照れたり恥ずかしがっていてどうする。お話にならない。大杉ヤルー!である。ちょっぴり見直した。
土曜社を船出した豊田剛さんもなかなか面白そう。
出版というのは要するに〈本をつくって、知らしめて、売る〉−これである」と幻冬舎見城徹さんの言葉を拝借した上で、「本をつくるのは、さして難しくない。なにしろ、大杉が意をこらして書きあげ、読者に読みつがれてきた文章がすでにある。しかも没後八十年あまり、その著作権は消滅し、公共のものになって久しい。著者印税を支払わずにすむのは、商売上ありがたい。」とさらりと書く。したたかでしなやかな戦略性を感じる。
〈映画をつくって、知らしめて、売る〉‥これがどれだけマットーに出来ているのか。
問題はこれである。(註記:引用の一部かぎカッコ記号を変更しました)