2ペンスの希望

映画言論活動中です

2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

三宅香帆さんを下敷きに(十三) ストーリーなんて些末

「ストーリー」なんて些末な存在だ。どんな台詞を言わせるか、どんなところにテーマを置くのか、どんな設定の人物を登場させるのか、どんな文体で書くのか、作家によってちがうはずだ。というか、それをちがわせるのが、いわゆる作家性とか、あるいは作家と…

三宅香帆さんを下敷きに(十二)におい 空気まで

自然を楽しむ。描写を楽しむ。(作者の)上手な自然描写から、自分がその景色の色からにおいから空気に至るまで想像できる。人間がつくっていない世界は、絵にならない自然がたくさんある。私は、どうしてか、類型的ではない、必ずしも絵にならない、今風に…

三宅香帆さんを下敷きに(十一)多重人格性を癒す

私は、小説を読むという行為は、自分の中の多重人格性を癒す作業だと思う。人間は、本来、誰しもさまざまな年齢の、さまざまな立場の自分を心の中に飼っている。だけど与えられた立場や外面によって、その外面に合った自分を外に出さざるをえない。本当はさ…

三宅香帆さんを下敷きに(十) 隠し味まで & 察する

文章(表現)のすべてに意味がある。そう思って、ゆっくりゆっくり文章(表現)をかみ砕いていく。そのうちに、小説(映画)の本当の姿があらわれる。その味わい方こそ、隠し味までちゃんと味わうことができる方法かもしれない。 一方で、三宅嬢は、こうも書く。 …

三宅香帆さんを下敷きに(九) タイトル

タイトルに問いかける。「なぜこの単語をタイトルとしたのか?」タイトルじゃなくても、書き出しでもなんでもいいんだけど、「なぜこのモチーフを重要そうな場所に持ってきたのか? このモチーフって、結局、何?」という問いを考えてみると面白くなる。タイ…

三宅香帆さんを下敷きに(八) 思うところ

なぜ作家は、小説なんて、こめんどくさいものを書くのだろう?「小説じゃないと伝わらない思想が作家のなかにあるから」じゃないか。小説になる手前には、作家の抱いている問題意識、悩み、あるいは考えたいテーマ、あるいはなんとなく浮かんでいるイメージ…

三宅香帆さんを下敷きに(七) 好みで選べばいい

翻訳は好みで選べばよい。どっちがいいとかじゃなくて好み。いかに「自分の好みに合った文体を探すか」この小説を「あ、面白いな」と思えるかどうかは、けっこう翻訳によって異なる。ぜひ大きい本屋か図書館に行って、翻訳の一ページ目だけでも読み比べてみ…

三宅香帆さんを下敷きに(六) あらすじじゃないよ 

面白さはあらすじだけではない。もちろん、あらすじをたどること自体が面白い小説はたくさんある。だけどそれ以上に、あらすじ以外の面白さもまた、たくさんある。たとえば登場人物の言動とか、台詞のパンチライン(決めぜりふ・聞かせどころ)とか、ここで…

三宅香帆さんを下敷きに(五)日常に生き日常を戦う 

小説を読むうえで大切なことのもう一つは、「日常の生活を送ること」現実逃避とか、日常を休むための癒しとか、じゃなしに、「テーマ」にあたる部分が、日常生活ですごくすごく自分にとって切実な悩みと重なると、普段より面白く読める。小説は現実逃避なん…

三宅香帆さんを下敷きに(四)武器はメタファー

面白く読むために必要な武器、それは「メタファー」を理解することだ、と三宅さんは説く。 「テーマ」を探すには、「メタファー」を理解できたら、はやい。メタファーとは、みんなが共有している前提に乗っかって、目に見えている設定や表現の裏で、現実って…

三宅香帆さんを下敷きに(三)タイミングと悩み

名作と呼ばれる小説を、買ったはいいけど「積ん読」――つまり買ったあと読まずに放置した。そんな経験はございませんか。こういう場合は、つかずはなれずでいるのがいちばんだ。そう、そのまま読まずに積ん読しとくべき!と、私は思う。そして思うに人生にお…

三宅香帆さんを下敷きに(二)悩みの相談相手

小説は「タイトルだけではどんな話かわからない」おそろしい商品、博打をしているも同然だ。反対にタイトルから内容が想定できる」のがビジネス書、実用書。あるいは、自己啓発本。まったくちがうジャンルだと思われる小説と自己啓発本だけど。実は、小説も…

三宅香帆さんを下敷きに(一)読むにはコツが

読んだふりはしたけど、ぶっちゃけ、よく分かんなかった!‥‥ハイ、正直に手をあげてください。あなたにとって、。そんな小説はありませんでしたか? 三宅香帆さんの本はこうはじまる。 傑作だ、ってみんな言ってるのに。私がアホだから、読めないんだ。昔の…

零から

零から新しく若い世代の映画"観客"を育成せよ! そう 啖呵は切ってみたものの 管理人に目算があるわけではない。映画をつくる側の仕事には少しは携わってきたが、見せるとか、映画の見方を教えるなんて経験も自信もない。どうするかな、と思っていたら、たま…

新しい"観客"をどうつくるか

映画を作りたい奴なんてほっといてもいっぱい出て来る。映画を見たい人、見る人、見る力をどう生み育てるか、その方が百万倍 重要だ。 SNS、ネット配信が広がる中、「映画の観せ方を考える時期に来ている」と語る映画館関係者の問題意識、興行界の危機意識は…

和田本『シネマッド・ティーパーティ』

近所の古本屋をのぞいたら、百円均一のワゴン棚に和田誠著『シネマッド・ティーパーティ』【1980.4.10 講談社 刊】を見つけた。 ジョン・フォード、ビリー・ワイルダー、アルフレッド・ヒッチコック。誰もが知る顔が並んでいる。 「珍品を集めるのがいいので…

イマドキ視聴環境 事情 渡邉本③

渡邉大輔(1982年生)さんの本『明るい映画、暗い映画 21世紀のスクリーン革命』【2021.10.10. blueprint 刊】についてさらに続ける。 渡邉さんの基本認識は、〈SNSや動画サイトが映像文化の「ソーシャル化」をもたらしている〉というものだ。〔「ソーシャル化…

明るい ⇔ 暗い 渡邉本②

渡邉大輔(1982年生)さんの本『明るい映画、暗い映画 21世紀のスクリーン革命』【2021.10.10. blueprint 刊】について続ける。 「明るい ⇔ 暗い」をキイワードとする映画史の再検証・再構築の試みには納得しかねるが、デジタルデバイスの進化に伴う映像表現の…

明るい ⇔ 暗い 渡邉本①

渡邉大輔(1982年生)さんの本『明るい映画、暗い映画 21世紀のスクリーン革命』【2021.10.10. blueprint 刊】について書く。 「インターネット、スマートフォン、SNS、Zoom、VR、AR、GoPro……新たなテクノロジーによって21世紀の映画はどのように変容したのか…

「時間拘束衣」としての映画

岩波書店のPR誌「図書」の2021年11月号に載っていた鷲田清一の「時間論」が面白かった。 「現実というのはほんらい、いろんなリズムを刻む時間が錯綜しているものだ。内臓の時間、自然の時間、時計の時間、歴史の時間などなど。そのなかでいろんな出来事が「…

「後味」こそ

「映画はなんといっても後味が一番やで」と友人と意見が一致した。バットエンドだってOK。ハッピーエンドでなくてもいい。登場人物や映画の作りがチャーミングなら、割り切れないもやもやが後に尾を引いたって一向に構わない。 「あー美味しかった。」 「え…

不動の清冽

音楽にしろ演芸演劇にしろ、ライブ・ナマだ。目の前の演者に興奮する。思わず知らず乗せられて、拍手したり喝采を送る。その波動を受けて演者も呼応し思わぬ次元に到達することがある。観客次第でステージが動く。化ける。ライブだけの強さだ。 映画は違う。…

大人と大人

日本の映画はいつ頃からか「子供が作って子供が見るもの」になってしまったようだ。狙われる財布 メインターゲットは、年端のいかない子供たちか十代、せいぜい二十代どまりといったところか。まともに成長した大人は、新作外国映画か旧作日本映画は見ても、…

映画好きの財界人は?

昔は映画好きだという財界人、企業人がたくさんいた。 資生堂の福原義春さん、ソニーの大賀典雄さんはじめ、時間をやりくりしながら映画館通いを続ける銀行の頭取や経済団体の会長、経営トップが少なくなかった。メディアでも伝わってきた。最近トンと聞かな…

本『僕の人生には事件が起きない』

図書館から借りて岩井勇気の本『僕の人生には事件が起きない』を読んだ。【2019.9.25. 新潮社 刊】 TVによく出ている漫才コンビ〈ハライチ〉の「じゃない方」の芸人が「小説新潮」に連載していたものを纏めた本だ。正直 大した本じゃなかった。日常の益体も…

幕の引き方

数日前にウェブサイト《Yahoo! JAPAN》で上沼恵美子の「店じまい」の記事を読んだ。(インタビュアー&構成は社納葉子)全国区は知らないが、関西では知らぬ者なき有名人だ。かくいう管理人も海原千里・万理の姉妹漫才コンビ時代から何十年も楽しませてもらっ…

『暗き世に爆ぜ』

2021年3月3日、小沢信男さんが亡くなった。93歳の大往生。単行本未収録の本『暗き世に爆ぜ 俳句的日常 』【2021.8.6. みすず書房 刊】を読んだ。すこぶる素敵な本だった。題名は、宮武外骨の墓所に刻まれた俳句「暗き世に爆(は)ぜかえりてぞ曼殊沙華(まんじ…

SK 写真家時代②

写真家キューブリック② スナップ写真もあれば、演出したものもある。 アングル、ライティング、構図、‥‥映画でも手持ちカメラで自ら廻したカットをいくつも使っているというエピソードが残っている。

SK 写真家時代①

スタンリー・キューブリックが映画を撮る前 写真家として活動していたことはファンの間では良く知られた事実だ。デビューは16歳 高校在学中に撮った下の写真。25ドルで買い取られ写真誌『Look』に載った。 以降カメラマンとして『Look』社に在籍し、1945年か…

SK 50年ぶりに再見

スタンリー・キューブリックの1971年作『時計仕掛けのオレンジ』を半世紀ぶりにDVDで見た。公開当時、劇場で見て以来だ。前半の印象ばかリ強烈で後半のストーリーは全く忘れていた。「ファン」ではあるが、すべてを受け入れる「信者」でも「マニア」でもない…