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三宅香帆さんを下敷きに(三)タイミングと悩み

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名作と呼ばれる小説を、買ったはいいけど「積ん読」――つまり買ったあと読まずに放置した。そんな経験はございませんか。こういう場合は、つかずはなれずでいるのがいちばんだ。そう、そのまま読まずに積ん読しとくべき!と、私は思う。そして思うに人生において、本来もっとも小説を読むに適したタイミングは、「自分の本当に切実な悩み」と「小説において描かれている切実な悩み」が重なった瞬間だと思う。誤解しないでほしいのだけど、小説は登場人物と同じ経験がなければ読めない、と言っているわけじゃない。面白く読むために必要だと言ってのは、体験ではなく、自分の経験する悩み、つまりは「テーマ」のことだ。

一冊の小説には、実は、いくつもの「テーマ」が存在する。テーマは切り口、と言い替えても差し支えないのだけれど、これまで「悩み」と呼んできた類のことだ。

想像力をはたらかせれば、どんなテーマでも、どんな登場人物でも、面白がることはできる。だけどもう少し、切実に、名作と呼ばれる小説の描いていることを理解しようとすれば、私は、この「テーマ」、つまり「その小説が抱えている悩み」にぶち当たらざるをえないと思う。というかそれがあるから、小説は、こんなにもたくさんの人をすくう。いちど好きな小説について、「この小説の悩み、テーマってなんなんだろう?」って考えてみると面白いかもしれない。一見ただのエンタメで面白いことだけ書い。てある小説でも、実は作者の隠れたテーマが存在していたりする。(引用者による一部適宜割愛アリ 乞う御容赦)

背伸びしないで自分のタイミングで合致したテーマ=悩みに出会い、そのいくつもある切り口を楽しめばいい――三宅さんの積ん読ノススメは、映画にも当てはまる。