ミニシアターの十年を綴った本『元町映画館ものがたり 人と、街と歩んだ10年、そして未来へ 』を読んだ。映画の現場を作り、映画の現場を生きる良書だった。
プレスシート冒頭にこうある。
「映画を愛する小児科医、堀忠が呼びかけ、「観たい映画を上映したい!」と映画ファンが集まって作り上げた映画館」
発起人で大家の堀忠さんの〈覚悟と責任〉が気持ちいい。家賃収入は年間の固定資産税を賄える程度、一般社団法人という組織形態の選び方も爽やかだ。『贅沢な棺桶』づくりだという自負と自覚も清々しい。
二代目支配人の林未来さんの〈映画の観せかたを考える時期に来ている〉〈届けかたのアップデイト〉〈(テーマや問題意識を共有する)当事者やその周辺以外の人にどう観てもらうか〉という視点も切実だ。
映画監督森田惠子さんとの対談で、〈目利き館主によるミニシアターの目利きビジネスは80年代、90年代がピークで今はそういうスタイルではなくなっている〉という指摘もリアル。
御多分に漏れず、ミニシアターの運営は悪戦苦闘が続いている。
それぞれの場で、様々なトライ&エラーが重ねられている。
けれど、映画館は無くならないだろう。
「(観客にとっても従業員にとっても)映画館はいろんなことを感じたり考えたりする能力を養い伸ばしていくところ」森田惠子監督はこう言っている。「どこかで好きなことを仕事にしていると、自分が好きなんだからがんばりたいという落とし穴があると思うんです。「いい映画を届けるという仕事の裏側には、本人がいろいろなことを感じたり考えたりする能力を伸ばし、人間としても成長していく部分が大事」ということを先輩たちが伝えていかなくてはならない。感じたり考える能力を養う時間を持てるような働き方が必要ですね。」
「映画館は、余計なものなく過ごすことができる時空間」濱口竜介監督はこう言っている。「僕自身は何度も同じ映画を観るのが好きですし、たとえ1本であっても映画を観尽くしたと思えることはない。その1本を観尽くす環境として、やはり映画館がないと本当の意味で映画と向き合えないのではないかと常々思っています。」
二人の監督の言葉も沁みる。時代の変化の中で新しい映画の送り出し事業がどんな形で可能なのか、アレコレ慎重に考えていきたい、そう思わせる本だった。映画の作り手志望の方の参考になるヒントも満載だが、何より、映画の送り手にならんする方に、(映画の配給や上映・広告宣伝を志望する若い層に、技術技能・業界知識以前を耕すための)恰好のテキストとしてオススメ。