2ペンスの希望

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三宅香帆さんを下敷きに(十一)多重人格性を癒す

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私は、小説を読むという行為は、自分の中の多重人格性を癒す作業だと思う。人間は、本来、誰しもさまざまな年齢の、さまざまな立場の自分を心の中に飼っている。だけど与えられた立場や外面によって、その外面に合った自分を外に出さざるをえない。本当はさまざまな立場の自分が自分を見ているのだけど、そのさまざまな自分を外に出す機会は、たいてい与えられない。

小説を読むことで、というか広く言えば物語を読むことで、さまざまな自分を外に出してやって、呼吸させてやることができる。

自分の物語はある程度定まった、一つの物語しか生きられない。だけど本当はたくさんの自分がいて、たくさんの物語を体験することを欲している。それは女性的でもあり男性的でもあり、あるいは若くもあり老いてもいて、外向的でもあり内向的でもある。現実世界でどの自分を人生のメインに置くかは、外的ないろんな自分の条件によって定められている。でも物語を読めば、いろんな自分を起こすことができる。だからなんだか癒されるんだ。(引用者による一部組み替え 適宜割愛アリ )

暗闇に溶けて、透明人間になって登場人物に仮託して他者を生きる。まぎれなく映画の楽しみのひとつ、だ。