2ペンスの希望

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題名

思い返せば、色んな仕事をしてきた。委託、請負、自前、助っ人、分野も形態も様々だ。そんな関係で、これまでに何百本も題名を付けてきた。題名は映画の顔、名刺か包装用紙みたいなもの。お澄まし顔の陰でアッカンベーをしているようなのも混じるが、命名の方針はひとつきりでやってきた。いつでもどこでもどれにも当てはまりそうなものはやめて、固有・個別・一回性、これである。「明るい未来」とか「限りなき前進」とか、何もいっていない無内容な題名が実は世の中には少なくない。それだけは極力避けてやってきた。中には誇大広告も混じったかもしれないが、出来るだけ誠実で正確でありたいとおもって取り組んできた(つもりだ)。忘れたものも少なくない。没になったものも多い。今でも覚えている幾つかを挙げてみる。
「用を極めて美に至る」=却下:大工道具の映画だった。
「大阪の中の大阪」=採用:大阪市の広報映画。地下や地中、普段余り目にすることの少ない都市機能を描いたものだった。
原子力渡世」=却下:関西電力美浜原子力発電所を作り運転する電力マンの群像。渡世という言葉が引っかかって没。
「宝島」=採用:オフィスコスト最適化のための経営トップ向けプレゼン映像。宝島をみすみす見過ごしていませんかと警告する。
「人生のペダル」=採用:阪神淡路大震災後に作ったテレビドキュメンタリー。神戸の自転車愛好グループが中国シルクロードを縦断する。
「二人日和」=採用:京都に暮らす二組のカップルのそれぞれの日々を描いた劇映画。原題は異なるが、劇場公開時にあたって改名した。
「未来世紀ニシナリ」=採用:どこやらで聞いたことのある洋画のパクリ。負のベクトルをひっくり返したいという思いを込めてのネーミングだった。
「日本の忘れ物」=採用:瀬戸内海塩飽諸島が舞台。限界集落といわれる島の暮らしを記録。キャッチフレーズは《島がある、人がいる、ただそれだけのこと》
いやぁ、懐かしい。
今日はチョッピリ感傷的になってしまった。
えっ、これからっすか。いや、タイトルだけは幾つも出来上がっているんっすけどね‥‥むにゃむにゃ‥「Tシャツ巡礼:古着を巡る世界経済の話」「千九百五十京都炎上:金閣寺・松竹下加茂撮影所・二代目京都駅1950年相次いで起きた大火にまつわる劇映画。二つも三つも名前をもつ人間の物語」「おれん異聞:原作翻案の時代劇。町娘にして秘伝の兵法の継承者その人生。父とは誰か、娘とは何か」「ぼけ満開:老人性痴呆礼賛」「映画の百姓:世界に名高い関西の映画アーキビストYさんの映画人生」それから、「千鳥残響:大正時代に生きた田中千鳥の言葉の世界」「ニッポン漂流:イエスの方舟を材にとった劇映画」などなど。
誰か、ポンとお金を出してくれるなんてチョボイチはなかろうが‥。