2ペンスの希望

映画言論活動中です

しなしなして

しなしなして、よく悉(つく)す》というのは、徳富蘆花鈴木三重吉を評した言葉だそうだ。復刻された『蘆花日記』に出てくるらしい。知ったのは、上野洋三さんの本『芭蕉の表現』【岩波現代文庫 2005年11月刊】その「あとがき」で読んだ。
上野さんは、俳諧とりわけ芭蕉を専門とする近世文学研究者。知る人ぞ知るホンモノの学者だ(と拙は思っている)。以下引用(青字)
《しなしなしてよく悉(つく)す》は、好悪と別に、事態・事物をじっくりと柔軟に追究し、描写し、文字通り具体的に書き尽くしているところを評価したものなのであろう。‥中略‥文学に立ち向かう態度には、この《しなしな》と《よく悉(つく)す》必要がある。‥‥中略‥‥この文章のすぐれている所以、読者を動かす力の基点、それを説明しないことには始まらない。‥中略‥「構成」や「構造」を考えるとき、資料たるテキストを子細に読み返す。自分の論が空想的とか幻影ではないかとか、まず疑ってかかる際に、てっとりばやい手段は、テキストそれ自体の中に、実は自分が言いたいことが、既に最初から書かれているのではないか、こちらが慌(あわただ)しく扱うので、現に書いてあることが見えないのではないか、と反省してみることである。自分自身を含めて、史料(資料)というほとんどこの世に一点しか存在しないものを理解するには、読書百遍、単純に繰り返し、繰り返し眺める他はない。「自分で考える」ほかないのだ。ひとさまの翻刻などあてにできない、エラい人の翻刻ほどあぶない。
しなしなしてよく悉(つく)す》 表現者にとっても、批評者にとっても、肝に銘じておきたい言葉の一つだと思っている。
上野さんは後段でこうも書いている。講読の授業の理想。
スゴイ文章だなァ、こう読めてよかったなァ、と目の前の学生たちとハイタッチして講義終了。
これもいいなぁ。

最後に負けじと拙の今日の背反有理。(何が負けじなのかよく分からんが‥)
本 ペラペラして厚い 
旗 ひらひらして重い 
人 ちゃらちゃらして深い ‥いやはやなんとも品も格も落ちちゃった お粗末。