2ペンスの希望

映画言論活動中です

幸せな映像

「幸せな」映像を見た。
日頃からお世話になっている元VE(ビデオエンジニア)さんが作った「同窓会DVD」だ。彼は若い頃からさまざまな映像の仕事をしてきたが、今は郷里に戻って、農業を中心に色んなことをやっている。卒業した中学校で数十年ぶりに開かれた同窓会、その会場で流されたDVDを見せて貰った。卒業アルバム160人あまり、その顔写真が現在の彼ら・彼女たちの顔写真と同ポジ同サイズで一人一人オーバーラップして綴られていく。
ただそれだけのシンプルな構造・構成だ。あどけない少年・少女たちの表情と今現在の姿が交錯する。忙しい合間をぬって彼は160人近くの同窓生をアポ無しで訪ね歩き、一枚一枚写真を撮った。日常の飾らぬ一瞬の積み重ね。遠くに暮らす人には写真を送ってもらって30分あまりのDVDにまとめた。映像技術・編集テクニックについてはお手の物。とはいえ、見えないところに手間隙がかかった労作だった。同窓会での上映の様子が目に浮かぶ。
もとより拙管理人にとっては、彼の同級生は縁もゆかりもない。それなのになんだか懐かしく、目が離せなくなり、幸せな気分のおすそ分けにあずかった気持ちになった。見ているうちに色んな想いが湧きあがってきた。数十年という時間の蓄積、一人一人が重ねた時間の厚み、アルバムの白黒写真と現在のスナップ写真、たった2枚の写真が豊かに語りかけてくる。
仕事柄、同窓会ビデオや結婚式ビデオも沢山見てきた。正直、関係者以外には興味の湧きにくい退屈な代物が多い。それらと決定的に違うのだ。雇われ仕事ではないからか?それもあろう。労を惜しまない手間隙ゆえか?それもあろう。対象に対する「愛情」の深さ?そうかもしれない。‥。そこで、はたと気がついた。
対象に対する「愛情」ではなく、映画・映像に対する「愛情」なのだ、と。
〈映画愛〉に裏打ちされたプロフェッショナルの力量、その確かさ。「愛情」という言葉を「誠意」「誠実」或いは「信頼」と置き換えてもいい。良く作られた映像は、人に届くものだ、人の心を動かし胸をを打つものだ、そんな「ゆるぎない信頼」が伝わってきた。
どう構成し、どうつないでいけば、どう見てもらえるか、どう受けとめられ、どう心をうごかしてもらえるかを熟知し、腕を振るった成果(精華)だった。
いいものを見せて貰った。