2ペンスの希望

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技術は進化する

ちょっとした事情があって、那須田淳さんの小説『星空ロック』を読んだ。
2014年夏第60回青少年読書感想文全国コンクール中学校の部課題図書だ。
中に、明治時代留学先のドイツで純正調オルガンを発明した田中正平さんのエピソード(実話)が登場する。ピアノでは、「ドの♯」と「レの♭」は同じ黒鍵を叩く。純正調オルガンというのは、この「ドの♯」と「レの♭」という微妙な音の違いをすべて区別する究極の鍵盤楽器だったそうだ。百年以上も前のことだが当時としては画期的な発明、皇帝を前にお披露目演奏会も開かれたらしい。それから一世紀、技術は進化する。今では純正調音階も平均律ピタゴラス音階も自由自在に作り出せるようになっている。数万円の電子オルガンやシンセサイザーで簡単に出来てしまう。
「だったら田中正平の発明にどんな意味があるのだろう‥」主人公たちはそう考える。技術は進化する。映画の世界もまたしかり、だ。フィルムしかなかったものが変わり、困難だった実写とOGの合成が容易になった。だからどうしたと云われればそれまでだ。進化が進歩をもたらしたかどうかは、別の話だろう。いずれにしろ、
いつの時代にも与えられた環境と条件の中でベストを尽くすほかに道はない
「あるもの」で「ないもの」を目指す。この姿勢だけは不変(普遍?)というところか。