2ペンスの希望

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用を極めて 美に至る』 三十年ほど前に作った映画の仮タイトルだ。オープンする企業博物館の館内で上映するための注文仕事だった。題材は「大工道具」。切れ味鋭く良い道具ほど使い込まれチビて姿を消す。何十年も使われ、手の脂が染み込んだ金槌の柄。堅い樫の木で作られた柄が指の形に窪んで黒光りしているその姿は、息を呑むほど美しかった。決して誇らず、ひっそりと退場するその姿勢に魅せられて命名した。完成直前になって「もってまわった言い回しで、タイトルとしては分かりにくい」とクレームがついた。確かにいささか気取った風もあったので、素直に直球・楷書のタイトル案に変更した。それでも没にするのはもったいないね、という声もあり、別に「用を極めて 美に至る」という字幕だけを入れて、残した。
永らく忘れていたが、数日前、知人が今も変わらず上映され続けていると教えてくれた。ゆくりなくも思い出した。数年前 博物館の来館者は20万人を超えたそうだ。そのうちどれ位の方に見て貰えたのかは定かではないが、ロングランであることだけは確かだ。映画を製作した会社も今はない。
製作会社がなくなっても、映画は残り、変わりなく生き続ける。
有り難いことだ。