2ペンスの希望

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ウジャンジャ

アジアアフリカ地域研究の若い文化人類学者小川さやかさんの『都市を生きぬくための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』を読んだ。すこぶる面白かった。
【2011年2月28日世界思想社刊】
タンザニアの都市部で古着を扱う路上商人たちの智慧を描いた本だ。
そのキイワードが、ウジャンジャ ujanja。「賢さ」「狡猾さ」を意味するスワヒリ語だ。抜け目の無さ・ズル賢さ、小川さんはそこに「策略的な実践知」を見出し、積極的に評価する。幾つか挙げてみる。
いわく――
●風や荒波など人間の力ではいかんともしがたい諸力を操る知であり、変転する状況に
 おいておおよその正確さをもって即興的に発動される近似的な知
●航海術であり舵取り術
●うまく危機を回避し、渡り合っていくための知恵・方策
●状況対応能力・対人能力であって、単なる知識ではない
●ともかく転がってでも前へ前へ漕ぎ出せ
●必死さ・気概は〇 腑抜け・甘ったれ・ぼんくらは×
●「共感」はするが深い「同情」はしない

極め付きはこのくだりだ。
(信用の不履行=「裏切り」が起きるのは)状況の変化によるものであり、「信頼できる人間」と「信頼できない人間」がいるわけではない。
こう書いたあと、タンザニアで出会った若い路上商人の言葉を紹介している。
‥どんなにがんばっても運が向いてこないときもある。誰だって腹が減りはじめると苛々し、稼ぎが少ない日が何日もつづくといろいろな考えが頭をよぎる。‥‥誰にでも
ありうることだよ。‥

その場しのぎ、その日ぐらし そのしたたかさ 
ウジャンジャ――刺激的で魅力的な言葉だと思いませんか?