2ペンスの希望

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あるものでつくる

翻訳が生硬なので敬遠していたJLGの「ゴダール映画史(全)」を必要あって読み始めた。【奥村昭夫訳 ちくま学芸文庫2012年2月10日 刊】『勝手にしやがれ』制作時のエピソードが載っていて面白かった。はじめは撮影所の中で撮ろうと考えていたのだが、映画組合と技術者の規則があってままならず、しかたなく撮影所の外(ロケ)で撮ることにした、とか、カメラマン・ラウール・クタール起用の逸話、写真用白黒フィルムを映画用に使おうとした結果パーフォレーション(フィルム送り用の穴)がかろうじて合致するカメフレックスしか使えなかった話、などなど、現場ならではの裏話が満載なのだが、貫いているのは「できることをする」「あるものでつくる」という姿勢だった。
訳文を挙げてみる。
自分にできることを手がかりにして自分がしたいと思うことをしたり」「自分が手にしているものをもとにして自分がしたいと思うことをすること」「問題が生じれば、自分にできることをし、自分はなにをしたがっているのかを考えようとするでしょう。」【48p49p】
当たり前といえば当たり前の話である。人間できることしかできないし、ないものはないのだから。
読んでいて、数年前亡くなった撮影所育ち最後の世代の友人監督の話を思い出した。「当日朝の天候に合わせて、空いているエキストラをかき集め急遽ロケに出かけるなんてのは日常茶飯事」「撮影所の映画は、結局その場しのぎの有り合わせ、あるものの寄せ集めで作られてきたんだ。卑下してるんじゃないよ、あるもので作る、ないものねだりではモノは作れない、そこから知恵と工夫が生まれる。そういうことなんだ。」