2ペンスの希望

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複数原作

ジャン・フォートリエ展を見てきた。アンフォルメル以前の人質シリーズに照準を合わせた展示だったが、初期の風景画や裸体のデッサン力に魅かれた。幾つか紹介したいところだが、写真ではとても伝わりそうにないのでエントランスだけどうぞ→
美術の力は、結局は技術・技量、人を動かすのは、手の仕事なのだと改めて感じた。そう思いながら、会場を見て回っていたら、思わぬ「爆弾」に出会った。複数原作:フォートリエは或る時期、教え子であった学生たちと協同して、オリジナルを何点も同時に創る「複数原作」を試みたそうだ。イーゼルに立てかけて絵を描くのを止め、作業台の上に平置きしたキャンバスに紙を貼り絵の具を石膏のように厚塗りしていく図工スタイル。これは、オリジナル=一点ものを至上価値と崇める絵画の価値観を転倒させる「危険思想」ではないか!そう感じた。
複数原作という言葉も不勉強ではじめて知った。【版画はまた別物】
帰宅してネットを叩いてみたら、複数原作=オリジナル・マルティプルスというれっきとした美術用語だった。詩人城戸朱里さんのブログにはこうあった。
それは、作品の複製を作ることではなく、オリジナル作品を複数化していくこと
オリジナルの複数化、それは、マルセル・デュシャンの「泉」がそうであるようなシュルレアリスムのオブジェの概念に対して、まるで反対の方角からオリジナルという考えを揺さぶるものであったと言ってもいい。
フォートリエに《作品は一点ものではなく大衆に広く行き渡らねばならない》という考え方があったかどうかは分からない。ただ、彼が生きた20世紀前半といえば、写真や映画の勃興期だった。とするなら、片隅のどこかに「オリジナルとコピー」という問題意識があったのでは‥と想像するのはたのしい。すべての芸術家はまた時代の子であった、といえば言いすぎだろうか。
もう一つ、複数原作については、協同作業という側面からも考えられそうだ。
宿題がまた増えた。