2ペンスの希望

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「つまりは技術である。」

備忘録。

映画作家大林宣彦が映画監督・小津安二郎について書いた文章。

小津映画を名作たらしめたものは、つまりは技術である。

小津さんの初期の映画の中に、会社で働くサラリーマンの姿を蜿蜒と横に移動していくショットがあり、ちょうどキャメラが目の前を通り過ぎていくタイミングでみんなあくびをしている。その中のひとりだけが懸命に仕事をしているままで通過していくと、キャメラがふと考えて立ち止まり、後戻りする。と、件の人物がやおらあくびをし、それを身届けたキャメラは安心して再び移動を続けていく。

 これなどは技術をひとつのギャグにしてみせた才気ある若書きのケースであったと同時に、小津さんにとってキャメラとは自分自身の視線であるという発見でもあった筈である。〈穏やかに張りつめた、我が人生の表明としての小津映画〉

CMディレクター・市川準が映画監督・小津安二郎について書いた文章。

キャメラが、人物を、ほんのちょっと見上げている。

 その、ほんちょっとに、感動する。

 このフレームを見つけるまで、大変だったと思う。

 このフレームから、小津さんの、「あなたはいま、人を、見ているんですよ」という、かすかな挑発を、感じる。

 人、ひとりみつめることは、大仕事なのだった。〈人、ひとりみつめること〉

ともに、引用 出典は『小津安二郎 新発見』【1193.9.28.松竹編 講談社刊 】(太字強調は引用者)