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小津ごのみ:番外

中野翠『小津ごのみ』シリーズ、昨日で終わりのつもりだったが、余計な付け足し。

完璧なスタイリッシュを貫いた小津安二郎だが、この中野本には気になる記述が二つほどあった。

◉俳優 飯田蝶子1947『長屋紳士録』撮影中に飯田蝶子が軽い気持ちで言った一言に小津が腹を立て、以後疎遠になってしまうのだが‥

気になってググってみたら、Kindle版に答えを見つけた。

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小津安二郎・人と仕事 刊行会. 改訂新版  上 (小津安二郎学会) (p.112). Kindle 版. 

小津安二郎・人と仕事 刊行会. 改訂新版 小津安二郎・人と仕事 上 (小津安二郎学会) (p.111). Kindle 版. 】

▽「いちばん 古く から 小 津 組 に 出演 し た ひと たち が 語る 座談会 」

◉オッチャン との 喧嘩 別れ

厚田 雄春 = 小 津 映画 に 出 なく なっ た 話 を し て 下さい。

飯田 蝶子= オッチャン が シンガポール から 帰っ て 来 ない 間 に 私 と 吉川(美満子) さん とで 東宝 に 移籍 し ちゃっ た の。 という のは、 私 たち も 松竹 に い たかっ た ん です けど、 当時 やたら に 役者 を 新劇 から 持っ て 来る の。 だから 松竹 には い られ ない という こと で 東宝 に 移っ ちゃっ た ん だ けど。 オッチャン は 私 たち の イメージ を 描い て 又 映画 を 作ろ う と 考え て 帰っ て 来 たら 私 たち は 松竹 に い なかっ た の。 がっかり し た らしい わね。

厚田 =「 長屋 紳士録」 ね。

飯田 = それでも やっぱり 自分 で やり たい もの だ からと いう んで、 東宝 と 話し合っ て 二人 を 借りる 形式 に なっ た の。 そうしたら 吉川 さん は いや だ と いう の。 あんなに 文句 いわ れ ちゃ ね。( 笑) する と 吉川 さん に 手紙 を 書い た の。 噛ん で 含める よう に、 やわらかく 優しく もう いじめ ない から 是非 出 て くれ、 と。 それ で 吉川 さん は 出る こと に なっ た。 うち へは わざわざ 来 て 酒 飲ん だり なん か し て 吉川 さん も 出 て くれる と いう し「 お 蝶 さん も 出 て くれ よ」 と いう の。 優しく やる から って、 それ で 出 た ん だ けど……。

吉川 = そう し たら 案 に 相違 し て、 ひどい のよ。 いつも と 変わり ない の。 丸太 ン 棒 で ぶん殴っ て やろ う かと 思っ た わ。

飯田 = 私 も えんえん テスト テスト で、 いつも の よう に なかなか OK が 出 ない の。 テスト の 時 でも フィルム を 廻す でしょ う、「 お前 たち 東宝 の まわし者 か、 松竹 を つぶす 気 か」 という のよ。 こっち も 頭 に 来 て いる から「 あら、 フィルム なら 私 が 買っ て あげる わ。 気 に し ない で 何度 でも 撮り 直し てよ」 と いっ た の。 こっち も 口惜しい から。 これ が ガァン と 来 て 私 たち 二人 を 使わ なく なっ ちゃっ た。

 

🔳もうおひとり 脚本 池田忠雄:深川で生まれ育った小津は、やっぱり御徒町の下町っこだった脚本家・池田忠雄と組んで、戦前昭和でもすでにして東京のまんなかから消え去りつつあった前近代的な男の肖像を愛惜をこめて描きあげたのだ。

池田忠雄

続けて、中野さんはこう書いている。

小津は公私ともに親しかった池田忠雄とも疎遠になったようだ。

さらに、

柳井隆雄(松竹大船調メロドラマの脚本家・映画『君の名は』シリーズ三部作など)による追悼文の中に「小津安二郎とあれほど密接であった池田忠雄とのコンビが、どういう事情で離れて行ったか等という興味のある話もあるが、今はまだそれに触れる時機ではないと思うのでここでは遠慮する事にする」という、一節がある。

これもヒントは上記 Kindle版にあった。どうやら、小田原芸者の愛人がからんだ話のようだが詳細は不明。

小津安二郎・人と仕事 刊行会. 改訂新版  上 (小津安二郎学会) (p.95~100). Kindle 版. 

▼若い 素顔  柳井  隆雄

これ以上の深入りは避ける。ご興味の向きは 直接 Kindle版をどうぞ。

(まったくもって余談だが、小津の愛人の話は、川崎長太郎が幾つも小説に書いている。このことも小津ファンは先刻承知。知られた話だ。)

で、書きたいのは監督と脚本家のコンビの話。

戦后のいわゆる「小津調」映画といえば、,名コンビ野田高梧の名が一番に挙がる。溝口健二なら依田義賢黒澤明なら小国英雄橋本忍じゃない)だ。

う~ん、やっぱり気になる。「喜八」とともに消えた男ー 池 忠。

1934『浮草』は池田忠雄の脚本だが、戦后 1959 大映でリメイクされた『浮草』は小津と野田が書いている。

ダンディなだけじゃなかった 小津の黒歴史