2ペンスの希望

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下山のガイド

みんな山に登りたがる。
「世に登山のガイドはあまたいる。けど下山のガイドはいない、だからオレがなる」と先輩の一人が引き篭もりの青年たちの相談に乗るようになって十年になる。彼は「下山のガイド」だ。山登り競争から外れて下りる人のためのガイド。実際の山登りでも同じことのようだが、下りるほうが難しく注意も必要だ。あやまれば道を踏み外して、がけ下まで真っ逆さまに転落。そんな危険もある。足も笑えば気も緩む。落ちこぼれ、という心なき声も届けば、自らの挫折感もある。彼らが安全に安心して「下山」するための指南役。賢く下山するための知恵と工夫と勇気を授ける。授けるというとなにやらエラソーに聞こえるが、実際は、「共有する」とか「分け合う」という方が近い。
「大人」にしか出来ない素敵な仕事だ。

本当に誰もがお山の大将になりたがる。
確かにテッペンは見晴らしもいいし、下界を見下ろして気分もよい。のんびりくつろぐ余裕もある。下にいれば見上げるしかないし、見通しもきかない。警戒心を怠ったら、いつやられるかも知れない。だから怖い。心細い。だから登りたがる気持ちは分る。下は弱いのだ。しかし、弱さゆえに鍛えられる強さもある。鋭さもある。判断を間違えれば抹殺される必死=決死ゆえに研ぎ澄まされた臭覚、一瞬にして敵と味方を見抜く眼力。そんな弱さに学びたいと思うようになってきた。