2ペンスの希望

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テレビと映画 その相違 続篇

フジテレビ系列で一世を風靡した「プロ野球ニュース」については憶えておられる向きも多いだろう。
キャメラマンのFさんは、このFNNプロ野球ニュースで永年仕事をしてきた。
Fさんは、もともと記録映画の出身、フィルムの世界でキャリアを積んできたベテランキャメラマンだ。彼が縁あって「プロ野球ニュース」を担当するようになった時、周りはテレビで育ったカメラマンばっかりだったそうだ。
或る試合、9回裏、リードしていたピッチャーが逆転ホームランを打たれてサヨナラ負けを喫した。テレビカメラマンは、こぞって悔しそうなピッチャーの顔のアップを狙う。その中で、Fキャメラマンはズームレンズを最大限に引いて、マウンドにたたずむピッチャーの大ロングを捉えた。とっさの動物的な判断だったのだろう。小高くなったマウンド上、満身に怒りを込めてロジンバッグ(滑り止め粉末)を思いっきり叩きつける姿が映し出された。悔しそうな表情ではなく、ぽつんと小さくひとりぼっちの姿と舞い上がる白い煙。それはピッチャーの無念と悔恨を何よりも雄弁に伝える映像だった。そして今も業界仲間うちで語り継がれる伝説の映像となった。
単純な話、クローズアップとロングショットの違いでしかない。
が、指向するベクトルは180度異なる。
映画とテレビの差、少しは伝わっただろうか。