2ペンスの希望

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作為3

以前にも一度書いたと記憶するが、「手乗り冨士」というのをご存知だろうか?
富士山を遠望するロケーションで、手前に手のひらを差し出して写真を撮ると、ちょうど遠景の富士山が手のひらの上に乗っかっているかのように見えるという極々初歩的なトリック撮影のことだ。戦前の日本映画にも出てくるエピソードなので、ご記憶の向きもあるかもしれない。或いは、当時の女学生の一部ではポピュラーだったのかもしれない。
先日、同じような光景に出くわした。
場所は神戸・新長田駅前の若松公園。高さ15.6m鉄人28号の実物大モニュメントが人気のスポットだ。夕暮れ時にやってきた数人の女子学生がデジカメを構えて、代わりばんこに「手のひら鉄人28号」の写真を撮り始めた。手のひらの上でポーズを決めた鉄人28号。ただのお遊びといえばお遊びだが、女子学生たちの交情、風通しの良さが伝わってきて、わるくはない。微笑ましいワンシーンだった。
CGの進化、デジタル技術の普及でSFX(VFX)はとどまるところを知らぬ勢いだが、どのみち末梢神経を刺激するばかりで感心しない。アレッと思い、オヤッと立ち止まらせる「視覚のマジック」「映画のトリック」は、創世記以来、映画の醍醐味だったのに。大味大仕掛け表層のスペクタクルではなく、単純素朴だが機微に触れ、内臓に響く「視覚のマジック」にこそ出会いたい。ここいらでいい加減に「作為」のポイントを切り替えてみないか。もはや手遅れとは絶対に言わせないゾ。