2ペンスの希望

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大きな袋

司馬遼太郎はまともに読んだことがない。苦手だ。文学者というよりジャーナリストだと思っているせいかもしれない。優れた物書きであることは承知しているが、作家としては1.5流だと思ってきた。観察眼と見立ての達人。最近読んだ『2016年の週刊文春』【柳澤健 著 2020.12.30. 光文社 刊】に池島信平文藝春秋第三代社長)とのエピソードが載っていた。

昭和四十年ごろ、三重県を一緒に旅行したことがある。伊勢松阪の宿で早く目がさめたため朝風呂に入りに行った。大きな湯ぶねの真中に信平さんの笑顔がうかんでいた。

 当時さほど親しくなかったので、共通の話題などはなく、ごくお座なりの話柄として、雑誌社の経営者としての菊池寛の偉さについてきいてみた。

「大きな袋をつくっておいてくれたことですね」

この表現がおもしろかった。

国語解釈していうと、「中央公論」や「世界」に健康法のはなしやプロ野球における管理の限界といった企画は入りにくいのである。菊池さんがつくった袋は、政治・経済だけでなく、およそ人間の現象にして印刷するに足る内容ならすべて入る。ふつう雑誌というものは性格規定から出発しており〝おもしろくて有意義な企画ではあるが、うちの雑誌にはむかない〟という選択の規制がたえず働いており、わるくするとそのために内容が衰弱するものなのである。

大きな袋という表現は、上司だった菊池寛に対するみごとな対応からうまれたもので、しつこくいえば、菊池寛をひとことでとらえているとともに、信平さん自身をもあらわしている。(太字強調は引用者 『雑誌記者 池島信平』所収の巻末の追悼文「信平さん記」より)

成程ね、ほんとに司馬さんは、目と耳が良い。やっぱり、つくる人というより、伝える人だ。

イイなぁ「大きな袋」 ふくよかで何でもたっぷり盛り込める。

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映画もそうありたいものだ。