2ペンスの希望

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風情

大切な映画の友人・先達から幾つか新しい映画の企画について聞いた。
東京の監督は、「中川幸夫」をやるということだ。知る人ぞ知る生け花作家である。香川県丸亀市出身。去る2012年3月30日93歳で亡くなった。
余り詳しくは知らなかったので、シナリオ作家早坂暁さんが書いた『君は歩いて行くらん 中川幸夫狂伝』【求龍堂2010年8月15日刊】を読んでみた。
(数日前にも取り上げたが、左に改めて表紙画像をあげておく)中川さん自身も面白かったが、早坂暁さんの文体がとても自在で強く惹かれた。フィクションとノンフィクションがない交ぜになって、中川幸夫という一人の表現者の奥行き(原郷と係累)と見ようとしていたものがクッキリと浮かび上がってくる構成は見事だ。さすが練達のシナリオライターの面目躍如。
願わくば、友人の映画も、ドキュメンタリーとドラマが渾然一体となった眩暈のような映画の誕生であらんことを!期待したい。

神戸の監督は、「神戸の風俗街に棲む一人の男と一人の女」を追うという。
ドラマにはよくありそうなネタだが、実在の人物でとなると、今のTVではとても採り上げられそうに無い話だ。だって、放送ではモザイクだらけになるしかないだろうから。友人には、モザイクを掛けるつもりなどサラサラ無い。従って、どう作るか、どう見せるか、出口の狭隘は承知で、「心を動かされたものを描きたい」「見たいものを見たい」という原初の欲望に駆られての出立だ。

どちらも「自主」でやるしかない。零からの出発だ。その意気や良し。モノづくりの「風情」はいつもこうありたいものだ。及ばずながら出来ることをやりたい。