2ペンスの希望

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つくづく

つくづく良い時代になったものだ。心からそう思う。
数日前にVHSで清水宏監督の『按摩と女』(1938年)を観た。
75年前に作られた映画を簡便自在に観ることが出来るようになった。 おったまげた。女優(高峰三枝子さんだ)の息を呑む美しさ、鄙びた(すでに75年前に鄙びた印象だった)温泉宿の煙るたたずまい、匂ってくる新緑と雨、そして何より、男とは女に惹かれる生きもの・女とは束縛から逃れようともがく謎の生きもの‥というシンプルなドラマの構造・メッセージ。くわえて、めくらとめあき、その見ているもの・見えているものは何なのか‥という哲学的問いかけ‥どれをとっても一級品、その達成はほとんど神話的といってもいい出来映えだった。
といっても小難しい芸術映画ではない。山の温泉場にやってきた名物按摩の二人連れが東京から来た謎めいた女に惹かれていく数日間を描いた普通の娯楽映画だ。そこにはまぎれもなく作家がいた。見せたい画があった。
1938年といえば、ジョン・フォードが『駅馬車』をつくる前年、オーソン・ウェルズ市民ケーン』が出来るのは三年後のことだ。戦前の日本映画は抜群だった。世界のクロサワ、世界のオヅ、ミゾグチ、ナルセだけが凄いんじゃない。それ以前から知られざる巨人が何人も山脈のように連なっていたことを再認識する。‥‥それが‥‥
「んっ、世界のキタノだって。ダレソレ??」レベルが違いすぎる。ラベルは同じようなものかもしれないが、中身が違いすぎる。
つくづくひどい時代になったものだ。心からそうも思う。

追記:
いや、やっぱり良い時代なのだろう。映画『按摩と女』は、YouTubeで全編を見ることが出来るのだから‥。参考までに、そのURLを記す。ご興味と時間のある時に騙されたと思って観てみることだ。
http://www.youtube.com/watch?v=lFrM4X3t3Ag
66分は無駄ではない。