2ペンスの希望

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「観光客」ノススメ

東さんは、一所にとどまる「村人」ではなく、偶然に身をさらす「旅人」になれ、と説く。ディープなバックパッカーでなくてよい。自らのバンコク家族旅行を例に、高級ホテルに泊まり観光名所を巡り地元の名物料理を堪能する「観光客」でまずは十分、と語る。
こんなふうに記すと、お前は本当のバンコクを見ていない‥とお叱りを受けそうです。実際、それはそうだと思います。
しかし、「本当のバンコク」とはなんなのでしょう。東京で考えてみてください。六本木ヒルズを見て得られる印象と、上野のアメ横を見て得られる印象、あるいは新宿のホームレスを見て得られる印象はまったく違うはずです。そのとき、では六本木ヒルズにいる人々が富裕層で、あそこにはまったく東京の現実が現れていないのかといえば、それもまた見当ちがいです。実際には、休日の六本木ヒルズは、富裕層でもなんでもない、一般市民が遊びにくる一種のテーマパークになっている。それもまた現実の東京。ホームレスや貧困層に注目すれば「本当の東京」が見えるというのも、ひとつのイデオロギーでしかありません。
」と書く。
真実はひとつしかないのではない。本当なんて無数にある、そう主張するかのように東さんは、「「偽の東京(外国人が勘違いで作り上げたキッチュな東京)」を模倣したタイのショッピングビルでの体験を挙げる。鳥居や提灯の意匠、謎の日本語や誤ったカナ表記、意味不明のエトセトラ、エトセトラ。


続けて「学者風に言えば、ここでは、オリジナルとコピーの関係がもう一段捻れている。オリジナルのない純粋なコピー、哲学用語で言う「シミュラークル」です。」と、ご自慢の説を展開していくのだが‥‥どこかで何かをこじらせたようで、正味の話、同意しかねる部分も残った。
ここで突然だが、かつて(多分昭和か大正、明治の頃)ハリウッドのことを「聖林」と誤訳した《児戯の風雅》を思い出した。(何のことか分からない若い衆はウィキペディアをどうぞ! ハリウッドHolly-wood 「Holly- (ひいらぎ)を Holy- (聖)と誤読して訳され、それが定着してしまったもの」と説明されているはずだ。)
そういえば、このネタ 昔々友人が作った映画にも使われていた。懐かしい。
それにしても、本当なんて無数にある、というフレーズは無敵だ。素敵。